秋と春か夏か冬 12話〜『サヨウナラ』〜-1
「…?…ここ…は……」
だんだんとクリアになる視界。
「…やっと起きたか…帰ってきてすぐ、倒れるように寝てしまったんだよ。丸一日と半分、眠ってたぞ」
イスに座っていた杏子が、俺の額に手をあてながら話す。
一日半?
そんなに寝てたなんて…美雪と会ったのが日曜だから…今日は火曜日か…。
…これから学校で会う美雪は恋人ではなく…友達なんだよな。
会ってどうしよう…。
普段通り出来る自信ないかも…。
とりあえず恭介は起き上がろうとした。
だがクラクラしてまともに起き上がれない。
「無理するな。熱もかなりあるんだ…ざっと見たが、疲労から来る風邪だろう…今日はこのまま寝ていろ」
「いま……何時だ?」
「午前の10時30分。今日熱が下がんなかったら病院行かせるからな。私の貴重な休みを潰してるんだ……とっとと治せ」
「……了解」
記憶にないが、昨日から看病してもらってるらしいので、おとなしく従う。
ウ"ーウ"ー。
恭介の携帯電話が鳴る。
動けないので杏子がとってくれた。
「…理緒くんだ。ほれ」
携帯を放り投げる。
人のを投げるな…。
「……もしもし」
『あっ、恭介!すぐ出てくれて良かった…いまドコです?空港にむかってるんですか?』
「風邪で寝込んでるよ。空港?……なんのことだ?」
『えっ!!!美雪さんから聞いてないんですか?……じゃぁあれは嘘だったんですね……恭介…落ち着いて聞いてください…』
「美雪さん……今日、外国に行ってしまうんです」
思考が停止する。
『………恭介?聞こえました?今朝、美雪さんが学校に来て言ったんですよ。恭介は知ってるんですか?って聞いたら、[朝に恭介の家に寄ってきたから大丈夫♪]って……』
そんな…卒業してから行くんじゃ…。
……いや…きっと本当だ。あいつの日曜の別れ際の言葉は……『さようなら』だった…。
確証はないが…俺にはわかる。
黙って行くつもりだ…。