明日への扉-9
ー朝ー
真希はデパートの屋上に来ていた。2日ぶりに現れた彼女に対して、ミルは黙って見つめる。
ミルを見つめる真希は、薄く笑うだけだった。
(…ミル。私、どうしたら良いのかな?)
憂鬱な気持ち。義之とのやり取り。その事を皆の前で言いふらし、おかげでイヤな目に遭っているのに、〈友達〉だと言ってのける律子。
そんな思いも、本を読めば晴れるかもしれないと〈銀河鉄〇の夜〉を読んだが、主人公のジョバ〇ニに自分を見てしまい余計落ち込んでしまった。
そんな真希をミルは黙って見つめるだけだった。
*****
いつものように、4時限前に姿を現した真希。クラスメイト達は、一様に心配気な顔で声を掛けてくれるが、彼女の目には仮面を着けているように無表情に見えた。
そう思いつつ、彼女自身も仮面を着けてクラスメイトに接している。居場所を作るために。
自己嫌悪が広がる。席に座り、ひとり俯むく。
その時だ。
「いやぁ、久しぶりに遅れちまった!」
そう言って、教室に入って来たのは義之だ。彼は騒がしいと思えるほど、大声で言い訳を発しながら自分の席へと歩いて行く。
すると、真希の時とは対象的に、クラスメイト達は笑顔で義之を野次りながら彼を迎える。
(私の時とは全然違うんだ)
真希は、下を向いたまま顔を上げようとしない。
義之の足音が近づいて来る。
「…相沢」
義之が声を掛ける。真希は俯いたままだ。
「すまなかったな。偉そうに説教しながらオレが遅れちまった」
義之は、机にカバンを掛けてイスに腰掛けながら言葉を続けている。だが、真希は相変わらず黙ったままだ。
「…どうだった?あの本。オマエに合ってるだろう」
そこまで言って、義之は初めて真希を見た。俯いた表情は堅く、その目は一点を見据えていた。
「…相沢。何か遭ったのか?」
義之は声のトーンを落として訊いた。真希は俯いていた顔をゆっくりと上げると義之を見た。
真希を見てギョっとする義之。
その瞳は涙が溢れていた。