明日への扉-7
「ここはさ。オレの特別な場所なんだ」
そう言うと、義之は空を仰ぐ。
「イヤな事があったらココでメシを食うんだ。風の匂いや鳥のさえずり…遠くの森や山を見ていると、気持ちが落ち着くんだ」
真希もゆっくりと空を見た。
青空に吹き流したような幾筋かの白い雲。日射しを受けて暖かささえ感じられる、典型的な冬の晴れ間。
「…ほんとだ……」
見つめる真希の横顔は、柔らかな表情だった。
「オマエ、その方が良いぞ」
「えっ?」
慌てて義之を見る真希。その顔は、慈愛に満ちた優しげな表情だ。
「いつものグループに囲まれてメシを食ってるオマエを見てな……笑ってるんだけど、なんだか無理してるみたいだった。
でも、今の顔は自然だった」
真希の顔がみるみる赤みを帯る。義之も自分の言葉に照れたのか、ごまかすように、
「さあ、食おうぜ!昼休みが終わっちまう」
広い屋上の一角。2人は並んで弁当を食べだした。
翌朝。真希は朝から学校に来ていた。その姿を見て喜んだのは、他ならぬ義之だ。
しかし、
「…おはよう…」
真希は義之に言葉を掛ける。それは、同じクラスになって初めての事だった。
義之は、チラリと彼女を見ると一言だけ、
「…今日は早いな」
(何を言ってるんだ!褒めてやらなきゃダメだろう)
気持ちを上手く言葉に出来ない義之。自分を叱責する。
しかし、真希は微笑むと、
「うん…なんとなく……」
その顔は実に良い笑顔だった。義之は惚けたように見つめていたが、やがてカバンに手を入れると1冊の本を真希の机に置いた。
「昨日は渡し損ねた。宮沢〇治の本だ」
「えっ?」
真希は本を取ると、慌てて開く。
「銀河〇道の夜……」
義之は微笑みながら、
「…それ、今のオマエに合ってると思ってな……読んでみろよ」
義之の言葉に真希は満面の笑みで、
「うん。ありがとう。読んでみる」
そんな2人のやり取りを、見つめている人物がいた。律子だった。