年の差-番外編-1
「顧問になって下さい」
目の前にいる、一人の女子学生が、自己紹介を行った後、言う。
「うちの部活には、3人、顧問の先生がおられますが、どの先生も忙しくて」
おい。俺は暇に見えるのか。
「お願いします!」
二人が俺の顔を見る。
…面倒だなぁ。
でも、こんなに頼まれたら、うんとしか言えないしなぁ…
「分かった。引き受けるよ」
愛想よく言う。
にこっとな。この顔をしておけば、まず誰も嫌がらない。
「ありがとうございます!」
二人は、再び礼を言った。
今時、礼儀正しい奴らだなと、思った。
ついでに言うと、息ピッタリだ。ある双子タレントを思い出す。
「では、正式な依頼に関する書類は、また後で、持って来ます。」
女の方が言う。
こいつ、何年だ?やたら、大人っぽいな…
「分かった。じゃ…明日の4時に、ここに来て」
と、人差し指で、床を指す。
勿論、こことは俺の研究室だ。
「分かりました。では、失礼します。」
と、二人は頭を下げて出て行った。
…ふぅ。
まさか、始業式が終わって、すぐ来るとは思わなかった。
『この時期になると、顧問の依頼が来ますよ』と、教授クラスの先生には聞いていたが、本当だった。
ここは、俺の就職先でもある学校。
俺−前川篤は、今月からここの、助教として働くことになった。
彼女はここ2年程いない。
淋しくないと言ったら、嘘になるが、今はそれどころではない。
悠が、心配だった。
悠とは幼い頃から知っている友達。幼なじみというやつ。
そいつが癌だと分かって、もう5年程経つだろうか。
始めの頃は、見ていられないくらい、やつれ、痩せ、心も淋しさで埋まっていたが、一年の闘病生活の末、持ち直した。
今は、悠の実家から電車で10分くらいのとこにある大手のお菓子会社で、事務をしている。
正直、勿体ない話だが、本人は『仕方ない』と、笑いながら言っていた。
悠が笑っているなら、それでいい。
そう思った。
悠に対して、不思議と恋愛感情はなかった。
でも、大切な人間には代わりなかった。
そういえば、さっき来たやつらって、名前なんだったっけ?
北野と、高井…だっけ?
忘れないうちに、手帳を広げる。
今日の日付の欄に、書き加える。
’顧問の依頼。4年北野、高井‘
と。