投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

年の差
【その他 恋愛小説】

年の差の最初へ 年の差 46 年の差 48 年の差の最後へ

年の差-番外編-5

そんな日から、数日後。
学生のテストを終え、研究室に戻った時だ。
部屋は狭く、10畳ほどの広さ。
大きな窓に、デスク。
このデスクも、事務机とは違い、少し高そうだ。
書斎と呼ばれるところに相応しそうな風格のある机だ。
窓からは、秋というには少し早い、日差しが入っていた。
いつも通り、机の右端に置いてあるケータイを見る。
開いてみると、‘不在着信5件’と書いている。
決定キーで選び、見てみると、悠のケータイからだった。
時間にして、1番古い着信は2時間だった。
なんだろ…
通話ボタンを押す。
接続中の電子音が鳴る。
「もしもし…」
悠だと、思ったら声が違った。
悠のお母さんだった。
「あ、おばさん。こんにちは。篤ですが…悠は?」
「あ、うん。悠ね…また体調崩して、入院することになったのよ。で、来週にあるライブは行けなくなったから、連絡してくれって、言われたのよ〜」
アハハ、と笑いながら言う。
その笑い声は、作られたものだと言うことは、明らかだった。
「…いつから悪かったんですか?」
「いつからって…ちょっと、風邪をこじらした程度よ…」
元気がない。
いつもは、『篤くん!もっと食べなさい!』と、言って、俺のケツを叩くようなおばちゃんだ。
そんなおばさんが、こんなに大人しいはずない。
「悠に言われたんですね。」
そう。
悠は、自分の状態を親しい人程、教えたがらない。
「…ぅう…実は…かなり無理したみたい…で、入院が長引きそうなの…」
泣きながら、おばさんが話してくれた。
「…そうなんですか。じゃ、今から…」
「篤くん、ごめんね。悠…に言われてるの、篤には言わないでって」
鼻を啜る音が聞こえる。
「…分かりました。じゃ、お見舞いは元気になってからで…」
「そうしてあげて」
「では、また連絡します」
「ありがとう…」
その言葉を聞いて、電話を切った。





空はいつの間にか、夕焼け色になり、ライブ会場は、朱く染まっていた。
チケット引き換え場所の前には、多くの人が集まっていた。
10代くらいの、男のグループから、40代くらいの夫婦まで、年齢層は広いみたいだ。
入場の時間になり、皆が巨大なタマゴのような建物に、飲み込まれて行く。
俺は、一人、チケットを持って立っていた。
来てしまったのだから、入ったらいい。
そう思うのに、何故か足が動かなかった。
悠は安定したらしく、改めて悠からは謝罪の電話があった。

皆が飲み込まれて行くなか、一人の女性が立っていた。
セミロングの黒のストレート。
タイトなTシャツ。体のラインが綺麗に出ているのが、いい証拠。
下は、スキニータイプのジーパンで、ハイカットのスニーカー。
チケットを眺めながら、一人、寂しそうだった。
何か惹かれるように、その人に近づく。
よく見ると、北野だった。


年の差の最初へ 年の差 46 年の差 48 年の差の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前