年の差-番外編-4
そんな、暑く、中学生みたいな淡い恋心を抱きつつ、学生の好きな休みは明けた。
と、言ってもまだ暑いし、こちらも夏休みボケしてそうだ。
そんな休日。
夏休み明けにある試験を作り終わり、久しぶりに実家に帰る。
車で一時間程、走らせる。
走り屋が好きそうな、環境には悪そうな車で行く。
学校では『環境問題が…』なんて言ってるくせに。
お気に入りのアーティストの歌を、低音を効かせて聞く。
実は、このアーティストは、悠と真下先輩−悠の元カレであり、俺の高校ん時の、先輩だった人も、好きだった。
今も好きなのかもしれないが、もう5年も連絡は取っていない。
原因は、間違いなく俺だ。
今でも、あれは正しかったのか分からない。
だけど、真下先輩も順調だと別の先輩から聞いているから、いいことにしよう。
実家に帰ると、誰もいなかった。
親父の車がなかったから、どこか行っているのだろうか?
家のカギを開け、ガラガラと音のする引き戸タイプの玄関をくぐる。
中は、俺が一人暮らしを始める前と変わっていなかった。
一人暮らしと言っても、年に一度は実家に帰って来ているから、久しいわけではない。
玄関で靴を脱ぐと、廊下全体を見回す。
汚いと印象はない。
ちゃんと、掃除はしているようだ。
しかし、端を見ると、やはり埃は溜まっていた。
無理もない。
ただでさえ忙しい親父が、一人でこんなでかい家、管理するには、酷だ。
リビングに入ると、廊下と同様、綺麗にしてあった。
ここに住んでいた時は、悠がよく掃除をしてくれた。
俺も掃除はしたが、料理の方が楽しかった。
その時、玄関でチャイムが鳴った。
分かってる。
この家に用があるのは、悠しかいない。
再び、玄関に戻り、戸を開けると、Tシャツにジーパンと、社会人とは思えない格好の悠が立っていた。
「帰って来るなら、連絡ぐらい頂戴よ」
腰に手を当てて、仁王立ちの姿で、説教される。
「いつ帰って来ても、いるからいいじゃん」
「私だって、デートぐらい有るかもしれないじゃん!」
怒りながら、うちの中に入っていく。
「ないな」
悠の後に続く。
「失礼ね!あ、何か飲む?」
「じゃ、お茶」
「はいは〜い」
慣れた手つきで、食器棚からグラスを出す。
そんな姿を、後ろから見る。
学生の頃はピッタリであっただろうジーパンは、今じゃ、ぶかぶか。
現にズレて、ローライズタイプじゃないのに、ローライズになっていた。
「篤こそ、彼女いないわけ?」
「いない」
「好きな子は?」
好きな子…言われて、真っ先に思いついたのは、他でもない、北野だった。
でも、相手は学生。
学生に手を出す程、バカじゃない。
しかし、この気持ちがずっと、続いていたら、卒業した後、頑張ってみようと思う。
「…いない」
「あー!怪しい!いるでしょ?」
指を指しながら言う。
「指、指すな。…いねーよ。」
「そうなの?でも、学生には手を出すなよ」
「…ぅ!ゲホッ」
「何、むせてんの?」
小ばかにしたように、言い放たれた。
「悠が変なことを言うからだろ…そんなこと、言うならこれを、やらねーぞ」
ジーパンの、ポケットから財布を取り出し、ライブのチケットを取り出す。
それを、人差し指と親指で挟み、目の前でちらつかせる。
「何そ…あー!行く!行くって!」
チケットを取り、興奮する悠。
実は、悠の快気祝いを、まだしていなかったので、何がいいかと思っていた。
その時、車であのアーティストの歌を聞いて、これにしようと決めたんだ。
「行くから!貰っておくわ!」
一枚を、ひょぃっと、取られる。
「…ったく、やるから、無理するなよ」
そう言って、一枚、悠に渡した。