飃の啼く…第21章(後編)-9
「心配で見に来たの?」
七星を鞘に収めて、別に何の他意もなく聞いた。すると、飃は笑って言う。
「心配はしていない。お前と二人になる時間が欲しかっただけだ。」
その声に含まれた真剣な響きから、飃が何を考えているのかは何と無く想像がついた。あたりまえだ。私だっておんなじことを考えているんだから。でも、一応
「そう?」
と強がって見せる。
「そうだ。」
有無を言わせずに、飃の腕の中に引き寄せられた。私が、何の疑いも持たずに私自身を認めてあげることが出来る場所に。シャツの薄い布地越しに、彼の熱が伝わってくる。そして、その肌がどれだけ滑らかで、力強いかを確かめたくなって、腰の辺りから手を滑り込ませる。
「なんだ、積極的だな?」
低い声でからかわれる。飃にはどんなにからかわれても嫌な気にはならないから、私も笑った。
「うぬぼれ屋の旦那様だこと。」
そういって、背中の皮をつまんでやった。抱きすくめられた腕の中で、上を見上げると飃の目とあった。暗がりの中に居ると、余計に彼の瞳は美しい。彼の灯す狐火の色と同じ。種族によって違う狐火のさらに一人ひとり微妙に異なる狐火の色だけど、飃の狐火は目映い金色をしていた。その炎が飛び火したように、私の体がかっと熱くなる。
飃が、私の服のすそに手を…
「っ!だめ!駄目だめだめ!!」
焦って我に返る。
「こんなところではじめたら、丸聞こえじゃ…いやいや、そうじゃなくて、そんなことしてる場合じゃないし!」
なるべく小さな声で言う。それでも服への侵入を試みようとするその手を捕まえて、必死に説得した。
「狗族は耳がいいんでしょ!?」
「声を我慢すればいいではないか?」
意地悪するのが楽しくて仕方ないらしいこの男は、耳元にかがんで熱い息を漏らしながら囁いてくる。
「出来ないの、知ってるくせに…ぃ!」
変な声が出ないように必死で抵抗しながら、決定打を放つ。
「あの沢山の狗族皆に、あたしのあえぎ声を聞かれてもいいっての!?」
すると、飃はすばやく身を離して、私を見た。
「それはもっともな意見だ。」
そして、またにやりと笑って、私は飃にからかわれていた事に気付いた。
「お前がその気になったらどうしようかと…まぁ、困るのは己ではないがな。」
にやにやの収まらない飃の後頭部を遠慮なくはたいた。
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