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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第21章(後編)-3

「…みるか、さくら?」

「ん?あ、え?」

我に返って、飃の顔を見た。私が話を聞いていなかったので、飃はもう一度繰り返す。

「また澱みが近くに来ているそうだ。低級のものだから、七星の練習台になるかもしれん。」

「あ、ああ、そだね。」

私は立ち上がった。飃がついてきてくれようとしたけど、断った。ここでの仲裁役に選ばれたのは飃だし、その仕事を放棄させてはならない。ただでさえ私は部外者なのだし、逆に少しひとりになれる時間が持てるのは嬉しかった。

「何かあったら大声出すから。」

そう言って、安心させるように、鞘に収まったままの七星の柄をしっかり握って見せた。

「ああ。」

私が狗族の間を抜けて、洞窟の出口に近い方向へ向かっていこうとすると、

「斑狗につとまるのか?」

奥のほうで声がした。あざけるような声で、ハンク、とか聞こえた。意味は解らない。ただ、ちょっとした動揺が狗族の間を走ったのはわかる。それと、戸惑い。つまり、ハンクとは私みたいな混血に対する蔑称なのだろう。飃が明らかに殺気立ったところを見れば、間違いなさそうだ。

「飃、私は気にしないから。」

私は彼らの背を向けたまま、出来るだけさりげなさを装って言った。

「ハンク、行きまーす!」

そう言って、足早に去った。私は気にしてなんかないんだから、と強がったところで…多分無駄だ。狗族には私の嘘や強がりは通用しない。それがわかる程度には、自分が中途半端だということは自覚しているつもりだ。

斑な狗。この解釈が間違っているとは思わない。皮肉にも、それを私に理解させたのは私の中に流れる薄い薄い狗族の血だ。



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沈黙を破ったのは茜だった。

「“ハンク”って、どういう意味なの?」

傍らの風炎に聞いた。洞窟中に居る皆に聞こえるような大きな声で。それが意図的であることは、誰の目にも明らかだ。

「斑(まだら)に、狗(いぬ)と書く。狗族の性質をほとんど受け継がない、狗族と多種族との合いの子に使う蔑称だ。」

風炎の声は、意図したかしなかったかは定かではないが、よく響いた。ふーん、と、面白くなさそうに茜が言う。

「命を懸けて自分たちを救おうとしてる相手に、“蔑称”ね。結構なご身分だこと。で?他にはなんて言ってるのかしらね?“人間の分際で”とか?」

腕を組んで、洞窟内に座り込んだり、壁にもたれている狗族のほうを見やる。


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