飃の啼く…第21章(後編)-17
「お…お願いですから…。」
「本気だな?」
南風の首筋に、青嵐の手が伸びる。
「ええ。」
首筋に、ゆっくりと味わうようにキスをする。滑らかな白い肌が、机の上のキャンドルの灯りを映して金色に輝いていた。
死より他には何ものも二人を分かたず、
愛より他には何ものも二人を繋がず。
生ける間は両手をもちて樹を育むこと
死した後はその身体を以て土を育ことを
ここに誓う
悪しきを正し、正しきを貫かん
苦楽を分かち、共に歩まん
己が血の為 己が血を継ぐ子の為に
この祝詞を以て 我ら夫婦の誓約を成す。
部族によって微妙に異なる祝詞(のりと)の旋律は、二人の詠唱の中では完全に混ざり合い、もう一つの新しい旋律を生んだ。目を閉じて厳かに歌う間、お互いを信じあうように堅くもなく、ゆるくもない力加減で手を握っていた。
目を開けた時、そこに居たのは幸せそうに微笑むお互いの姿だった。
「始めて見た瞬間にわかったよ…おれはお前と一緒になるか、誰とも一緒にならないかのどちらかだろうってな。」
「嘘です。ついこの間まで、貴方は会うたびに私を恐ろしい顔で睨みつけてましたわ。」
笑いながら、甘えるような声で言う。
「お前だって、おれに酒をぶっかけたじゃねぇか。」
「あれは…。」
南風が口ごもる。
「あの時の顔、ぞくっとくるほど色っぽかったっけ。」
そう言って、これ以上の言葉が二人の間に割り込まないようにキスをした。
滑るような手つきで、南風の着物の肩を肌く。狂おしいほどの衝動に押しつぶされそうになりながら、幾重にも重なった南風の服を解いていった。
南風の手がぎこちなく青嵐のシャツのボタンに伸びて、半ば震える手でそれを外した。露になった肌には、まるで暗闇に吸い込まれたみたいに見える黒い文字が刻まれていた。
「痛みますか…?」
「いや…」
答えようとした青嵐は息を呑んだ。南風の唇が、慈しむようなキスを彼の腹に落とした。敏感な反応に気をよくして、南風は舌でへその辺りを愛撫した。青嵐は南風を持ち上げ、自分の膝の上に乗せた。長い髪が幾筋もほつれて、それがまた淫靡だった。
青嵐は南風の乳房を優しく包んで、彼女が彼にしたのよりもっと情熱をこめて愛撫した。