飃の啼く…第21章(後編)-16
「おれとなら?」
ああ、馬鹿野郎…こんなに余裕がない精神状態で女をくどこうなんてどうかしてやがる…味もわからないスコッチを、ぐいっと飲んだ。
「ええ。」
南風は言った。
「ええ。貴方となら、寂しい思いをすることはないでしょうね…。」
そして、青嵐のほうへ顔を上げて、おずおずと微笑んだ。青嵐は彼女の上気した頬に手を添えて、誓うように厳かに言った。
「…一生続く旅路だろうと、南風。お前に孤独な思いはさせない。」
潤んだ目が、ゆっくりと閉じた。
口付けはかすかに甘く、それを頭のどこかで認識したその後は、音楽すら耳に入らなかった。
「あ…青嵐…人が来てしまいます…。」
南風をカウンターのイスから抱き上げて、ソファに運ぶ途中で恥ずかしそうに言った。青嵐は笑って、その口をキスで塞いでからこう言った。
「閉店の札をかけてある。」
「悪い人…こうやって沢山の女性をたぶらかしたのですね。」
怒った振りをしながらも笑いを抑えきれないする南風の耳をなめた。
「…お前で最後だよ。」
店の中で一番大きくて、すわり心地のいいベッドに南風を横たえた。恥じらいに顔を背ける南風の上にかがんで、そんな感情を忘れさせるくらい激しいキスをした。両手が南風の頬を包み、南風の細い指は青嵐の肩を掴んでいる。手がかりを求めるように強く。
不意に青嵐が顔を離し、呆然とした表情で呟いた。
「…畜生…。」
「どうしたのですか…?」
不安になった南風が体を起こす。
「こんなところで契りを結ぶつもりじゃ…つまり、色々考えてあったんだ…場所とか…。」
そう言って、手の中に顔をうずめた。
「“こんな所”でも、私は気にしませんよ、青嵐…。」
少年のような彼の純粋な落胆振りに、微笑を隠しきれない南風が、青嵐の肩に手を置いた。
「今、貴方が…その…。」
赤くなって口をつぐんだ。そして、青嵐を勇気付けるように思い切って言う。
「今、欲しいのです。青嵐…他のどんな時でも、どんな場所でも嫌です。」
顔を上げた南風の顔は真っ赤で、かすかに息が荒かった。これ以上見つめられるのに耐えられなくなった南風が、言葉に窮して畳み掛けた。