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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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飃の啼く…第21章(前編)-14

「やめなさい!」

ひるみ、よろめいた颪の目は、大きく見開かれ…南風の顔から、首筋…そして、はだけた胸元に移った。自分が何をしたのかを、ゆっくりと理解していく過程で、驚いていた表情が苦い後悔のそれに変わった。
「何を…考えているのですか!」
怒りに潤んだ視線から逃げるように、颪は横を向いて柱にもたれた。痛々しい引っかき傷が、南風の方を向いた。
「…悪かった。」
小さな声で、颪が呟いた。
「冗談のつもりですか?さぞ楽しいでしょうね?!裏切り者とこき下ろし、この上私を…こんな風に侮辱して!!」
地下室には、南風の震える怒声だけが響いた。答える者は無く、ただ…俯いた颪だけが、それを受け止めていた。

「皆が噂していることを、真剣に受け止めるべきです!貴方は青嵐会を滅ぼしかねな…」

不意に
颪の頬にできた傷に、何か黒いものが群がるのが…見えた。
「それは…」
言った南風の、驚いた顔を見て、颪は慌てて顔を背けた。
「それは何です!」
「何でもねぇ。」
颪は短く告げた。
「見るな。」
だが、南風には覚えがあった。虫のように肌の上を這う黒い影は…。南風は颪の肩を掴んで振り向かせた。咎めるような南風の表情に、颪は仕方無く、頬を覆う手をどけた。
「これは…あなじではないのですか?貴方はあなじに乗っ取られている…?」
「あなじか…全く違うとは言えねえな。ただし、こいつは外因性のあなじだ。」

そして、彼の皮膚をうごめくものに触れようと伸ばされた南風の指から逃げるように顔を背けた。

「これが“青嵐”どもなんだよ、嬢ちゃん。」
腫れた肌の赤みを、黒く小さな文字が吸い取っていた。さながら蛭のように。それは青嵐の首魁が代々受け継いできた、先祖の怨念の籠った呪文字だった。

「親父や、その前の青嵐、九尾に関わって死んだ全部の人間の名前がここにある…さながらおれは、生ける墓碑ってところだな。」

そして、再び訪れたわき腹の痛みに顔をしかめた。顔を伏せて、握った拳でわき腹を押さえた。

そして颪は、疲れ果てたように客用のソファに腰を下ろす。柔らかく重い、インテリアランプの鬱金(うこん)の光が、颪の顔に暗い影を投げかけていた。

そして、困惑を隠せない南風に、シャツのボタンの上三つを外して、胸を開いてみせた。そこには、鎖骨の辺りまで肌を覆っう、無数の細かな文字があった。

「無責任だなんだってのは、こいつらに始終聞かされてるから慣れてるが…不能とはね。」

そして、手で乱暴に髪を掻きむしって、苛立ちを発散した。言葉に詰まったまましばらくうつむいたまま立ち尽くしていた颪は、誰にともなく苦しそうに笑った。

「先ほどは…言い過ぎました。貴方は確かに頭首には向いていないけれど、青嵐であることに代わりはない。」

その率直な言葉に、青嵐の辛そうな顔が緩んだ。そして、黙り込んで重い呼吸をし、しばらくそのまま黙って考え込んでいた。

「お前が嘘をついてるとはおもわねぇ。」

声の調子ががらりと変わった颪が、事務的な調子で言った。


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