その一粒の-3
「でさ、どんなの作るの?」
「トリュフチョコで良いでしょう。そんなに難しくないけど難しそうに見えて美味しい、割の良いチョコよ」
「うわ、嫌な理由」
「まあ、そうは云っても美味しさを追い求めたら大変だし、ショコラティエレベルの物を作ろうと思うなら、修業が必要だけど」
「いや、出来ないし。今からは」
翼子はそうよね、と云って茶色に染めた自分の髪の毛を撫でた。
キャラ的には黒髪が似合う感じなのに、翼子の髪の毛は明るい茶色だ。
一度理由を聞いてみたら、翼子は元々地毛が茶色いのだと云う。
翼子は云った。
『地毛が茶色いから、って云ってもバカは納得しないのよ。染めてんだろ黒くしろなんて、この私の生まれつきの性質を否定しやがるから、更に明るい茶色に染めてやったわ!』
そう云って翼子は笑うけど、きっとたくさん嫌な思いをしたんだと思う。
だって、一度ぽつりともらしたんだもん。
『ショーリは気にしなかったの。綺麗だって褒める事もしないし、そのままで良いよとも云わなかった。ああ、茶色いねそういえば、って云ったの』
ショーリはそんなの、本当にどうでも良いのよ―――そう云う翼子はとても嬉しそうだった。
「でも翼子が作ったら美味しそうだね。ショーリさん喜ぶでしょ」
「だと良いけど。ショーリ、ぼんやりしてるから」
そう云ってはにかんだ翼子は凄く可愛かった。
ショーリさんはきっと、この顔にメロメロなんだね、うん。
アタシは翼子の家に行く約束を取り付けて、隣のクラスを後にしたのだった。
*
「って事で、翼子に教えて貰うんだ」
「大豆生田になぁ。お前も変わった奴と友達だよな」
学校からの帰り、アタシはクマノミに翼子とのやり取りを話した。
クマノミは苦笑いを浮かべる。確かに翼子はちょっと変わり者だけど。
「でも、お前らしいっちゃらしいかもな。お前、家で作る時犬に気をつけろよ?」
「そりゃ勿論」
犬ってチョコ食べたら駄目なんだよね。
あの子はハウスに入れて、それでも落とさないようにしなきゃ。
落ちててぱくん、なんて大変だもん。
「一度クマノミんちのワンちゃん見たいな」
「ああ。今度日曜休めたら、招待してやるよ」
「やった!」
ご家族と会うのは緊張するけど、なんとかなるよね。
「犬も喜ぶな。あいつ、人が好きだから」
ワンちゃんの事を話すクマノミは、子供みたいに単純に幸せそうで可愛い。
それでも、胸の何処かはまだ痛いんだろう。
クマノミが前に飼ってたワンちゃんは、毒を食べて死んじゃったそうだ。