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その一粒の
【青春 恋愛小説】

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その一粒の-4

付き合う中で、少しずつ教えて貰った。

クマノミが一人で散歩に連れて行った時だったこと。

友達と会って、犬を繋いで少し遊んじゃったこと。

その間に毒を食べさせられて―――クマノミはすぐに気付いてやれなかったこと。

聞いてて、アタシはいつも泣いてしまった。

クマノミが自分が間違ってた事をよく解ってるから、余計悲しかった。

だって人は、いつも正しくなんて出来ないもん。

ねぇクマノミ。アタシ、胸が痛いよ。

どうして、人が悲しむ事や痛い事が好きな人が居るのかな。

あんなふかふかした可愛い生き物を殺したいと思う人は、どんな冷たい世界で生きてるんだろう。

あったかいものを壊すのが嬉しいなんて、色々な理由はあるんだろうし、もしかしたら理由なんてないのかも知れないし、もうよく解んないけど―――。

凄く寂しい。

「うん。いっぱい遊ぶ」

アタシに出来る事なんて、ちっぽけだ。

死んでしまったワンちゃんが、今はのんびり出来てますようにって思う事と、今居る犬を大事にする事。

「そうだな」

そのくらいしか出来ないアタシは、ちっぽけだね。



気付いたら、世の中はバレンタインデー当日になっていた。

簡単よ、なんて云ってた筈のチョコ作りはスパルタ教育で、アタシはそりゃあもう大変だった。

翼子は恐ろしい。ショーリさん、大変だろうなあ。

友人の彼氏に同情しつつ、アタシはクマノミにチョコを渡した。

「ありがとう」

クマノミは笑って、素直にお礼を云ってくれた。

「クッキー練習しないといけないな」
「うん。あのね、生地を絞り出して、真ん中にチェリー乗っけたやつね」
「緑でも赤でも乗っけてやるよ」

クマノミはそう云ってアタシの頭をバフバフ叩いた。

きっと賢い女になるには、このくらいで幸せになってちゃ駄目なんだろうね。

でもね、クマノミ。
アタシはそりゃ可愛いアクセサリーも、服もバッグも欲しいけどさ、高い物が欲しい訳じゃないんだよ。

好きな物が欲しいんだ。

それはさ、好きな人の作ったクッキーだったりするの。

アタシは女の偏差値、きっと低いと思う。


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