桜が咲く頃〜傷〜-1
ここは大笑(おおえ)
沢山の人が集まる街。
この国の中心部。
うかつだった…
皆が夕食を食べている今なら、風呂に入っても大丈夫だと思ったのに…
まさか、あいつが来るなんて…
来る気配に気付かないなんて…
鈴(りん)は、自分を引き裂いて、めちゃくちゃにしたい気分だった…
でも、いつまでもここにいるわけにはいかない。
鈴は戸を睨みつける。
戸の向こうにいるであろう人物に対して…
俺、山村矮助(あいすけ)はひどく動揺していた…
まさか、まさか!まさか!!
ここで、少し説明しよう。俺は今、大野常吉という国の運営に重要な人物の護衛をしている。
そして、鈴(りん)という小柄で、女の子みたいな顔立ちのやつが護衛に加わった。
ここのとこ、毎日雨が続き、今日も朝から雨だった。
行きは籠に乗り、鈴を含め6人の護衛と共に出かけた大野は、鈴と一緒にずぶ濡れになって帰ってきた。
そして鈴は、背中に大きな傷を負っていた。
大野の話によると、帰りに街中で5人組の男たちに襲われたらしい。
5人それぞれ、鈴に傷を負わされ帰って行ったらしいが、鈴以外の護衛は、皆死んだらしい…
俺は鈴が心配で、探しはじめた。
鈴が風呂場に入って行くのを見た、と聞いたので風呂場に行き、ドアを開けたその時、
見てしまった…
鈴の裸を。
そして、知ってしまった…
鈴が、女だということを…
鈴は刀を手に取り、俺に掴みかかった。
そして、俺の首筋に刃を当て
『このことを誰かに喋ってみろ。
お前を殺す』
と言ってきた。
俺は一度深呼吸をし、鈴の体を見ないよう、目をぎゅっと瞑り
『言わない。だから、早く風呂入ってこいよ』
『は?』
『誰も入って来ないように見張っとくから、安心して行ってこい』
『…』
『ホント、覗いたりしないから。早く傷口洗っておいでよ』
鈴は刀を鞘におさめ、戸の向こうに消えた。