桜が咲く頃〜傷〜-4
今日だって、他5人の護衛は命をおとしたのに、鈴は主を守り、生きて帰ってきたんだから。
でも、女の子だ。
男何十人にも、いっぺんにこられたら、さすがに無理だろう。
だから、こうしていつでも逃げられるように?
暖かい布団で眠らず、こんな寒いとこで…?
俺は目頭が熱くなってきた。
上を向き、ぎゅっと目を瞑ってから一つ深呼吸をし、そっと目を開いて、鈴の隣に行った。
俺が傍についてるから、布団で寝るよう勧めるつもりで…
その時、俺は鈴の異変に気付いた。
顔が赤く、少し呼吸が乱れている。
『鈴!』
俺は鈴の額に触る。
『お前、熱が…』
『構うな…』
そう言って鈴はヨロヨロと立ち上がる。
が、すぐにバランスを崩した。
俺は鈴を受け止め、
『ばか、無理するな!』
と言うと、すぐに抱き抱えた。
雨に濡れたせいで発熱したのかもしれない。
傷口が化膿して発熱したのかもしれない。
どちらにせよ、汗をかいて着替えたり、傷口の消毒をしたりするのを、皆と一緒に過ごす、あの部屋でするわけにはいかない。
鈴のために一部屋貰えるよう頼むため、大野の部屋へ急いだ。
俺の腕の中でぐったりしている鈴を見て、大野はすぐに一部屋用意してくれた。自分をしっかりと守った鈴の株は、大野の中でかなり上がっていたのかもしれない。
大野は鈴のために医者を呼ぼうか、とまで言ったが俺が断った。
用意された部屋は、大野が客人と会うための部屋だった。
しばらく客人と会う予定はないからゆっくり休むといい、と言ってくれた。
一人の女性が布団を持って、部屋まで案内してくれた。
鈴を布団に寝かしていると、薬や水の入った桶などを持って、女性が一人入ってきた。
布団を運んできた女性と交代で、鈴の看病をするよう大野に言われたらしい。
俺が看るから、と言い二人には帰ってもらった。
人気がないのを確認すると、鈴の服を脱がし傷口を調べた。
化膿はしていない。
俺はほっとして、女性が持ってきた薬の一つ、塗り薬を手に取り、もう一度手当てをした。
服を着せ、今度は飲み薬を飲ませた。
鈴はなんとか飲み込み、俺は鈴をうつ伏せに寝かす。
タオルを水で濡らし、鈴の首にあてる。
『鈴…』
俺はそっと髪を撫でた…
『鈴、お前はなんでこんな生き方をしている?
なあ、鈴。
俺じゃ何も出来ないか?
鈴、教えてくれよ…
鈴…』
俺は、鈴を抱きしめたくて…
髪を、撫で続けることしか、出来なかった……