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桜が咲く頃
【ファンタジー 恋愛小説】

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桜が咲く頃〜傷〜-3

『薬、塗りづらいだろ?
俺塗るから、貸して?』

鈴は俺を睨み付けたまま動かない。

俺は、自分の刀を離れた場所に置き

『俺がなんかしたら斬ればいい』

そう言って右手を差し出す。

鈴は俺の様子をじっくり見つつ、ゆっくりと刀をしまった。

鈴は俺に背を向ける。

刀の柄は持ったまま。

俺は薬を手に取り塗りはじめる。

その時はじめて気付いた。

鈴の体には無数の傷があった。

ごく最近というよりは、ずいぶん昔の傷のようだ…



今日負った傷は幸い浅く、すぐ治るだろう。
っと言っても、数日はかなり痛いだろうが。

薬を塗り終わり、近くに置いてあったガーゼと包帯を手に取る。
ガーゼを傷口に当て、包帯を巻く。

背中を俺が巻き、前は鈴が自分で巻いた。
鈴は包帯の端をきゅっと結び、慣れた手つきでさらしを巻き、服を着る。

俺はその間鈴に背を向け、着替え終わるのを待つ。
待つ間、俺は一つ気になっていることを聞いてみた。

『これからどうするんだ?
この屋敷、出ていくのか?』

返事はない。
俺は更に続ける

『せめて、その傷が治るまでいたらどうだ?
俺、このこと話さないから』

鈴は無言で俺の横を通り過ぎ、風呂場を出て行った。



言ってなかったが、ここでの給料は日払いで、夜お金を管理している人の部屋へ一人づつ入って行き、お金をもらう。

なので、お金を受け取ったら出て行く人も多い。

俺は、こんな男ばっかりの中に鈴がいるのも心配だったが、傷ついているのに、どこかへ行ってしまう方がもっと心配で、鈴が出ていきはしないかとずっと傍にいた。

鈴は今日の分のお金を受け取り、すぐにでも出て行くのかと思ったら、裏庭に面した廊下の柱に寄りかかって目を閉じた。

再びここで説明しよう。

この大野の屋敷には、俺や鈴を含め50人位の護衛がいる。
俺達護衛は、10人1グループにわかれ、1グループにつき1部屋与えられる。
寝るのも、この10人で寝るんだけど、鈴はいつもこの、裏庭に面した廊下の柱に寄りかかって寝る。

だから、俺は鈴はいつものようにここで寝るんだ。
っとほっとした後、いやいや、そう思わせて俺を油断させてから出て行くつもりなのかもしれない。
と思いなおし、鈴とは柱を挟んで反対側に腰をおろした。

ふと、裏門が目に入る。

鈴がここで寝るのは、自分の身に何かあったら、すぐ逃げられるようにするためなのかな?

鈴の剣の腕前はとてもすごいと思う。


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