桜が咲く頃〜傷〜-2
俺は脱衣所で正座をし、頭の中を整理していた。
まさか鈴が女だったなんて…
はじめは驚いたが、次第に落ち着きはじめ、この事実を受け止められるようになってきた。
そして、ふと気付いた。
どのくらいここで正座していたかわからないが、晩飯を食べ終わった人が、ここに来るかもしれない。
俺は後ろを振り返る。
今、目の前の戸の向こうに、鈴が傷口を洗うため風呂に入っている。
鈴が…
俺は、さっきの鈴を思い出す…
鈴の裸……
いやいやいや!
思い出してる場合じゃない!!
こうしてる間にも誰か来るかもしれない。
鈴はまだ出てこないのか?
もしかして、倒れてるのかもしれない。
俺は不安になり、戸をノックする。
『鈴?大丈夫か?』
返事がない。
『おい、鈴?』
何も返ってこない。
俺が戸に手をかけたその時
ガラッと戸が開き、中から鈴が出てきた。
俺は慌てて鈴から離れ、背を向ける。
後ろから、かちゃかちゃっと音がする。
なんだろう?
と、そぉっと後ろを振り返り俺はぎょっとした。
鈴は俺に背を向けて座っていて、鈴の背中には、左肩から右斜め下にかけて、大きな切傷があった。
鈴はその傷に薬を塗ろうとしていたが、うまく塗れない。
俺は鈴に近づく。
『来るな』
鈴の鋭い声。
俺は一瞬立ち止まるが、再び近づく。
鈴が刀を手にし、切っ先を俺に向ける。
『来るな』
冷たい目。
その奥は、なんだか怯えているようで…
傷付きながらも必死に抵抗しようとする姿は、まるで野生の子猫のようで…
なぜだか、涙が溢れそうになった…