辛殻破片『仄暗い甘辛の底から』-8
◇
私ハ私ヲ拒ム。
ドウシテ?
届カナイ物ガ遠クニアルカラ?
記憶ノ情報ニ抗エナイカラ?
精神ハ雪ノヨウニ千切レ、天翔テ滅ビ華々シク散ッタノニ…。
三途ノ川ヲ渡レナイ私ハドウシテ私ヲ拒ムノ?
「ショウチャン………」
黒い空間、それハ見果テぬ場所。
知りモしナい空気、無音ノ世界。
「アれ…どこデす? こコ…」
私ハそンナ場所にいタ。
「ナン、だカ…オカしイな…」 体ガ歪ミ、吸イ込マレる感覚二陥ル。
歯車が鳴る。
かちり、かちり、かちり。
一定の規則に従い、テンポ良く回る。
かちり、かちり、かちり。
私はここにいる。
喋ることも動くことも出来ず、ただひたすら歯車の音を聞くだけ。
かちり、かちり、かちり。
微妙な恐怖感が湧いてくる。 この音が怖いのか、自分が怖いのか、どちらか。
かちり、かちり、かちり。
そもそも私はどこにいる。 ここにいるだけで、自分自身がどこにいるかさえわからない。
かちり、かちり、かちり。
ああ、わかった。
かちり、かちり、かちり。
私は歯車。
かちり、かちり、かちり。
音も自分も、どっちも怖い。 恐怖の対象が自分なだけに、嫌悪感を抱く。
かちり、かちり、かちり。
昔もこんなことがあった気がする。 たしか、そう、一匹の黒猫。
かちり、かちり、かちり。
名前はシャム。
かちり、かちり、かちり。
シャム、本当にシャムなのかわからない。
かちり、かちり、かちり。
かちり、かちり、かちり。
かちり、かちり、かちり。
ショウだった気もする。
黒猫は嫌い。
私を不幸にするだけの存在なのだから。
ショウは、黒猫。
嫌い。
禍禍しい海に突き落とされて、死んでしまえ。
ショウ。
殺したくなるほど愛してる猫。
ショウ。
大嫌い。
ならば好きな物は。
真っ先に出てくる。
ショウちゃん。
でも、それは黒猫。