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甘辛ニーズ
【コメディ その他小説】

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辛殻破片『仄暗い甘辛の底から』-8



 私ハ私ヲ拒ム。

 ドウシテ?

 届カナイ物ガ遠クニアルカラ?

 記憶ノ情報ニ抗エナイカラ?

 精神ハ雪ノヨウニ千切レ、天翔テ滅ビ華々シク散ッタノニ…。

 三途ノ川ヲ渡レナイ私ハドウシテ私ヲ拒ムノ?



「ショウチャン………」
 黒い空間、それハ見果テぬ場所。
 知りモしナい空気、無音ノ世界。
「アれ…どこデす? こコ…」
 私ハそンナ場所にいタ。
「ナン、だカ…オカしイな…」 体ガ歪ミ、吸イ込マレる感覚二陥ル。


 歯車が鳴る。
 かちり、かちり、かちり。
 一定の規則に従い、テンポ良く回る。
 かちり、かちり、かちり。
 私はここにいる。

 喋ることも動くことも出来ず、ただひたすら歯車の音を聞くだけ。
 かちり、かちり、かちり。
 微妙な恐怖感が湧いてくる。 この音が怖いのか、自分が怖いのか、どちらか。
 かちり、かちり、かちり。
 そもそも私はどこにいる。 ここにいるだけで、自分自身がどこにいるかさえわからない。
 かちり、かちり、かちり。
 ああ、わかった。
 かちり、かちり、かちり。
 私は歯車。
 かちり、かちり、かちり。
 音も自分も、どっちも怖い。 恐怖の対象が自分なだけに、嫌悪感を抱く。
 かちり、かちり、かちり。
 昔もこんなことがあった気がする。 たしか、そう、一匹の黒猫。
 かちり、かちり、かちり。
 名前はシャム。
 かちり、かちり、かちり。
 シャム、本当にシャムなのかわからない。
 かちり、かちり、かちり。
 かちり、かちり、かちり。
 かちり、かちり、かちり。
 ショウだった気もする。



 黒猫は嫌い。
 私を不幸にするだけの存在なのだから。

 ショウは、黒猫。
 嫌い。
 禍禍しい海に突き落とされて、死んでしまえ。

 ショウ。
 殺したくなるほど愛してる猫。
 ショウ。
 大嫌い。

 ならば好きな物は。
 真っ先に出てくる。
 ショウちゃん。
 でも、それは黒猫。


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