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甘辛ニーズ
【コメディ その他小説】

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辛殻破片『仄暗い甘辛の底から』-7



 カノンがリビング中に鳴り響く中、僕は液晶画面に写る『変態馬鹿男』を見て困惑する他なかった。
 変なボタンを押して切ってしまうかもしれない。 正にド素人の決定的な優柔不断所だった。

 わざわざ凪を起こして聞く訳にもいかないし、どうすればいいんだ。
 というかいい加減に起きてもらいたい。 こんなにもうるさいメドレーが鳴り続けても起きないって、明らかにおかしいだろう。

「……」
 放っといてもうるさいだけだし、仕方がない、決断を僕の勘に委ねよう。

「…えい」
 適当にボタンを押す。

 あれほどうるさかった部屋が、一瞬にして沈黙を呼んだ。
 ということは…。

 念の為、携帯電話を耳に当ててみる。
「…もしもし」
「やっと出たか馬鹿女。 おせーぞ馬鹿野郎!」

 繋がったのは嬉しいけど、なんだか切りたくなった。

「……秀麻、というか佐々見ですが」
「………はっ? ショウたん?」
「…はい、将太です」

 沈黙。

「何故にお前が出るんだ? 俺はアイツに発信したはずだけど…」
「僕からも質問をいいか? 色々と雑音が聴こえるけど、今はどこにいるんだ? 学校じゃないのか?」
「あー…学校…は早退してきた」
 なんでだ? 今日は…
「テスト…は?」
「…少しバトルをしただけで、まったくの無問題だ。 気にするな」
 バトル? よくわからないけど、サボったらしい。
「由紀奈はもう行ったか。 とりあえず聖奈さんに替わってくれ」
「聖奈さんなら何十分か前に出掛けたって雪さんが言ってた。 でもまだ帰ってこない」
「…そうか。 じゃ、学校も出たし、今から帰るわ。 話も後だ」

 そうか、忘れてた。 透に聞くべきことがあったんだ。
 本人もこう言ってる通り、透が帰ってきてから話そう。
「ああ、コンビニ寄ってくけど何かいるか?」
「今のところは…いいや」
「オーケイ。 じゃあ切…おわっ!!?」
「え?」

 まだ通話中のままだが、声が小さくてよく聞き取れない。 何があったんだろう。

「透?」
 透が何か言っている。 耳を澄ます。
「…いや…学校は、ってか…服が赤…」
 透の声と同時に、他の第三者の声が聴こえる。

「学校はどうしました、と聞いているんです! ちゃんと答えて下さい! 透くん!」

 大声だったからよく聴こえる。

 聖奈さん…何故そこに?

「透、透? 一回だけ聖奈さんに替わってほしい」
「今電話中なんで…すみません、ちーと待ってもらえたら…」
「なら尚更! 話をしてる時は切って下さい!」
 …どうやら取り込み中らしい。

 どうしよう。 これ、お金とかかかるかもしれないし、切った方がいいのかな?

 と考えてる内に勝手に切れた。 いや、切られた。

「…………」
 未だ眠っている凪のポケットに電話を突っ込んでおいた。
「やん…ショウちゃん…そこはらめぇ…」
「…………」
「………くぅ…」

 実に毒々しい気分である。 何よりもお腹が減りすぎて死にそうだ。

「……憂鬱、かなぁ…」


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