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甘辛ニーズ
【コメディ その他小説】

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辛殻破片『仄暗い甘辛の底から』-2

「あー…すまんすまん。 俺に惚れてる訳じゃなかったのね」
「はい…?」


 そして始まりの合図、鐘が鳴る。

 さっきまで騒がしかった教室も、一層と空気が変わっている。
 相変わらずよくわからんな。 真面目なのか、真面目じゃないのか。

 ……さて。

 そろそろ俺も脳をフル活用させるとしよう。

 シャーペンを指にフィットさせ、空欄に名前を書く。

 『雪柳の王者 透サマ』と。



 気が変わった。
「…なあ」
 最小限に声を抑え、前の席の石田の肩を叩きつつ話しかける。
「…なんですか…?」
 石田も小声で、頭だけ振り向かせて応答してきた。
「お前、全部書いたか?」
「…まだ始まったばかりですよ…?」
 そりゃあそうだろうな、少し先走りすぎたか。
 石田に謝罪をしておき、姿勢を戻す。


 その十分後。

 俺は再び小声で石田に話しかけた。
「もう終わったか…?」
「あともう少しで埋まりますけど…?」
 鬱陶しいと感じ始めているのか、気だるそうな声質だった。 事は早めに終わらせなきゃな。
「じゃあ…ちょっとでいい。 ちょっとだけそれを…見せてくれないか?」
「………え?」

 一応同じクラスメイトだし、生徒の特徴くらいは知っている。
 悪いことでも断れない性格の人間。 それが石田だ。

「……そういうのは…どうかと…」
 む、反抗してきたか。
 なら泣き落としだな。
「頼むよ。 …いろいろと事情があって、勉強できなくてさ…」
「…………」
 俺って悪だなあ、本当に。 昔の姉貴ほどじゃあないだろうけど。


 石田は無言で、誰にも気付かないように素早くプリントを渡してくれた。
「サンキュ」
 …こういうのは将来、利用されるタイプの女だな。 特に俺には関係ないが。

 行動開始。

 石田のプリントに俺の名前を書き込み、俺のプリントに石田の名前を書き込む。

 我ながら完璧な作戦だ。

「ほい、返すぜ」
「え…もう……?」
「周りにバレたら困るだろ? だから…さ」

 石田に渡したプリントは、名前以外全部空欄の『俺のプリント』。
 そして俺の手元にあるのは、ほぼ埋めつくされてる『石田のプリント』。

 すまないな石田。 恨むなら作戦の暁、六情体の月に恨んでくれ。


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