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甘辛ニーズ
【コメディ その他小説】

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辛殻破片『甘辛のエクリチュール』-5

 まず第一に、理由は聞かなかったものの、自分は不登校生だと、この子の口からそう告げられた。
 もちろんそれくらいは範囲の内に入っている。 今日は平日だし、時間も時間だから既に察していた。

 第二に、いつも通り父親は仕事、母親は自宅の家事、姉は学校、少年は変わらず不登校生活。
 『普通の家庭』の前提条件に当てはまっているから、これも範囲内。 この状況が事の引き金を引いたと言っても過言ではないのかもしれない。

 今日に限ってじゃあないらしいが、少年は" 不登校をしている "という自覚故の罪悪感からか「家事の手伝いをする」と物申した。
 母は「じゃあ一緒に」と調理の手伝いを頼み包丁を渡そうとするが、何故か見つからなかったらしく。

 ここで第三。 " 少年の部屋から偶然取り出されたナイフ "。
 わたしとこの子がぶつかった時に初めてわかった真実も、このナイフに隠されている。

 あとはもう、概ね完璧に予想通りの展開だった。

 そのナイフで食材を切ろうとするが、なかなか切れず、切り方のコツを教えてもらおうとナイフ片手食材片手に、母の元へ向かう少年。
 この後にまさかのハプニングが発生する。

 " 少年は母のいる一歩手前で躓いた "…するとどうなるか?

 下手をする、しないにも関わらず、端無くも起こってしまう出来事だった。


 ナイフが母親に刺さり、少年は驚愕、困惑…そして混乱し始めた。
 ナイフはいつの間にか抜けていたが、それは危ないと少年も少なからず知っていた。 『出血多量』絶望の始まりのような四文字が頭の中で浮かび上がる。

 しかしどうすることも出来ずにオロオロとしているだけだった。 母の腹部は真っ赤に染められ、その上目を閉じたまま起きあがることなく…。

 少年は中学生であるにもまだまだ『子供』だった。

 心が焦燥され、更に最高級の罪悪感が鉛の様にのし掛かる。

 どうしていいかわからない。 どうすればいいのか的確な判断が出来ない、震えが止まらない、どうしよう…。

 外に出て、走って走って、どんなに息が切れても走り続けた。

 その瞬間、少年は『殺人』のレッテルを" 自分で "貼り付けた。





 このことを話しながら、少年は泣いていた。 しとどに、嗚咽を漏らしながら…。

 本来だったらやるべき事は決まっているが、わたしは何の為にここにいる?

 本当の『罪』に気付かせてあげなくちゃ。

「名前を聞いてもいいですか…?」
 声はあまり出ていなかったけど、口の動きから推測するに、この子の名前は…「あずまこうじ ふじや」

「えっと、ふじやくん、で合ってますよね?」
 首肯が返ってきた。
「…ふじやくん、ちょっと…落ち着いてもらえますか?」
 言葉の意味を理解したのか時間もそんなにかからず、ふじやくんはすぐに泣き止み、話を聞く態勢になってくれた。


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