年の差-6-4
すると、菜海が口を開く。
「実は、私、陸に選択してもらいたくて来たの」
言葉を選ぶ様に、丁寧に話す。
選択って…どうゆう意味?
「陸にとって、1番何が大切かって」
今まで、俯き加減だった顔が上がり、俺の顔を見る。
何か決意したような目だった。
「悠さんの…こと。まだ、忘れてなかったんでしょ?」
ドキッ。
後ろめたい気持ち、焦り、その他の気持ちがごちゃまぜになった気分だ。
「別にね、忘れろとは言わない。だって、陸が私のことを大切にしてくれてるのは、よく分かってる。分かってるからこそ…はっきりさせて、結婚したいと思った。」
菜海は、続ける。
「余計なお世話だって分かってる。だけど…もう、お互いに乗り越えなきゃいけないことがあると、思うの」
お互い…?
気付いたら、駅に着いていた。
切符を買うことなく、券売機の近くで立ったまま。
「お互いって…?」
絞り出すような声で、尋ねてみる。
「私…前川先生を、一晩一緒に過ごした」
不思議と、ショックはなかった。
あぁ、やっぱり。
あの表情はそうだったんだな。
「驚かない…の?」
今にも泣きそうな、菜海が聞いてくる。
「あぁ、そうかなぁって思ってた。…だけど、菜海が好きな気持ちは…」
変わらないよ。
そう、言うはずだった。
でも、何故か口から出なかった。
分からない。
何故?
「ねぇ…陸。」
何かを覚悟した様な顔をして、こちらを見る。
「別れよう」
と、言われた。
ガチャ。
鍵を開けて、家に入る。
まず、目に入ったのはテレビの前にあるソファーだった。
そこに二人並んでよく映画なんかを見たことを思い出した。
たまに節操のない俺が、そこで菜海と仲良くしようともした。
二人掛けのソファー。
菜海がいない平日。
ここへ座るのは、淋しいから避けていた。
そこに、座ってみる。
目の前には、俺が働く会社の壁掛けの液晶テレビ。
その下には、何枚かDVDが重ねられている。
右を見ると、ベランダからの日光を遮るカーテン。
菜海が『遮光カーテンがいい!』と、言ってオレンジ色のを買ってきてくれた。
全く…人の家を替えるのが好きだよな。
再び視線をテレビに、戻す。
暗く、何も映っていない液テレビは、鏡の役目を果たし、俺を写す。
そこに写る俺は、ソファーに座り、両肘をふとももに乗せ、前屈みだった。
右手の指で、額を支える。
悩んだって仕方ない。
事実、俺はフラれたんだ。