年の差-6-2
『おかけになった電話番号は現在使われてお…』
プツッ。
電源ボタンを押した。
『これで、悠の気持ち、分かって頂けたでしょうか?』
再び、前川が冷たく言う。
冷めた、声。
前にあった親しみのある声はどこに行ったのだろうか。
それだけ告げた前川は、方向を帰り道の方へ変えた。
『悠に何かあったのか?』
帰る前川の背中に問い掛ける。
反応はない。
逃げるように早足だった。
歩き始めた足を、止める気はなかったようだ。
やがて、背中は小さくなり、消えた。
呆然としながらも、頭の一部は冷静で、家の中に入ることを勧めていた。
それから、しばらく何度かかけ直した。
しかし、何度かけても、無駄に丁寧な女性の声しか返ってこなかった。
丁寧じゃなくて、雑でいい。
ただ一言。
『陸』
と。
悠に言って欲しかった。
『どったのさぁ〜』
冗談っぽく言う、このセリフ。
アホだなぁと思うと同時に、愛おしく想える。
なんでもいい。
なんでもいいから、声が聞きたかった。
会いたかった。
真相が聞きたかった。
そして、出来ることなら…
『ありがとう』と、言いたかった。
だが、そんな思いも虚しく、月日は流れた。
特に酒に溺れるわけでも、八つ当たりすることもなかった。
代わりに、仕事をバカみたいに頑張った。
頑張れば頑張る程、心は寂しかった。
新しい彼女が出来ても、変わらなかった。
忘れようと、努力した。
今の彼女を愛そう。
そう決めても、心のどこかで、悠と比べてた。
最低だと思った。
自分の彼女を元カノと比べるなんて。
だけど、ダメだった。
忘れられなかった。
「今は大丈夫なのか?」
機嫌を窺うようにして、聞く。
このやり取りが、今の俺らの関係を象徴していた。
「うん。入院して、だいぶ楽になった。」
「そっかぁ…」
他に続ける言葉がない。
そりゃ、そうだ。
何年振りに会ったんだ?
今更、話すことなんてない。
「ねぇ、陸」
沈黙を破ったのは、悠だった。