投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

不確かなモノ
【大人 恋愛小説】

不確かなモノの最初へ 不確かなモノ 6 不確かなモノ 8 不確かなモノの最後へ

確かなモノ-1

呼吸を乱して上気したまま、その黒曜石の様な瞳で僕を睨みつける。
荒々しく唇を奪われた後、貴方はいつだって、屈する事無く僕へ軽蔑の眼差しを向ける。
初めて出会ってからかなりの月日を越えた今でも、貴方は何も変わらず…やはり、全く気付いていない。
貴方のその表情が…僕の加虐心を更に煽っている事を……


「だぁめっ!倫クン、戻って来ちゃう……」
残念ながら、もう戻って来てるんですけどね……
廊下の壁に背を預けて、僕は手元の時計を確認した。
もうそろそろ、時間の限界みたいですね。
「あぁん、そんな…ダメだってばぁっ!」
少し隙間の開いた部屋の中からは、甘ったるい声が絶えず聞こえている。
僕がここに居ることに気付かず、他の男とイチャイチャと…全くもってあの女は、馬鹿な女だ。

「お待たせしました、李鈴さん」
僕は平然と部屋のドアを開けた。
服を哀れな程に乱した小牧 李鈴(コマキ リリン)が、僕の姿を確認するなり、目の前の男を蹴飛ばして飛び起きる。
「そろそろ次のスタジオに移動しないと、遅刻してしまいます。5分で支度してください」
「ま、まさか倫クン…ずっと…居た、の?」
「何の話ですか?それでは、僕は先に行って車をまわしておきますから、直ぐに支度をして下りて来てくださいね」
僕は固まる李鈴と何とかという名前の男を置いて、一足先に楽屋を出た。


「ね、ねえ、倫クン…お、怒ってる?」
車内という密室の中…李鈴はさっきから、僕の様子をしきりにうかがっている。
「別に、怒ってなんていませんよ?どうしてそう思うんです?」
「だ、だって倫クン…口数少ないし……」
それは僕じゃなくて、貴方の方でしょう?
普段から、僕の口数はこんなものだ。
僕の口数が少ないと感じるなら、それは、自分の心の中にやましい事が有るからだろう。
僕のせいにしないで欲しい。

「あっ、あっれれ〜?」
急に李鈴は、大袈裟に声を上げた。そして、僕の鞄からはみ出した小さな箱を勝手に取り出す。
「コレ、こないだの?イトコのお姉サンに、まだ渡してなかったんだぁ?」
「えぇ。渡そうと思っていた日に、彼女は来なかったんです」
「じゃぁさぁ、李鈴が貰ってもい〜ぃ?」
「駄目です。言ったでしょう?李鈴さんにこのデザインは、似合いません」
僕は赤信号で止まった隙に、李鈴の手から箱を取り上げた。

「あぁっ、ケチーっ!じゃぁさぁ、またあのホテルに連れて行ってね?」
李鈴は懲りずに、甘えた様な声を出す。
そんな可愛い子ぶっても無駄ですよ。残念ながら、もう貴方をあのホテルに連れて行く気は有りませんから。
どうしてもと言うのならば、違う男と行って下さい。
また良いところを邪魔されては、堪りませんからね。
「えぇ。機会が有れば」
僕はアクセルを踏みながら、空返事をした。


彼女に再会したのは、全くの偶然だった。
李鈴にねだられて…仕方なく連れて行ったのが、彼女・初見 更砂(ハツミ サラサ)が働くあのホテルだった。
久々に再会した彼女は、相変わらずで…僕に心を許さず、そして、いとも容易く僕の腕に捕まった。
彼女の必死の抵抗なんか、僕にとっては可愛いものだ。そんなもの、やり方次第ではどうにでもなる。


不確かなモノの最初へ 不確かなモノ 6 不確かなモノ 8 不確かなモノの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前