確かなモノ-6
冷たい北風が吹き荒れる街を、足が勝手に彼女を探して歩き回る。
彼女が行きそうな場所なんか、職場しか知らないくせに…気が焦ってしまってどうしようもない。
他の男のモノになんかしたくない。
僕が奪ったその唇で、僕以外の男と誓いのキスを交わすだなんて…絶対に許しません。
「初見さんっ!」
「え?しっ、霜村!?」
あの日、僕が彼女を待っていた場所で…眩いイルミネーションに目をやる彼女の姿を、やっと見つけた。
僕は駆け寄ると、驚きを隠せないでいる彼女を捕まえて、きつくその細い体を抱き締める。
「ちょっ、ちょっと…霜村っ!」
「なんで職場に居ないんですか、貴方はっ!?」
「なんでって…なんでアンタにそんなコト……」
「うっさいですね」
「はぁぁ!?それはアンタが…んっ!」
僕に反抗的な言葉ばかりを吐くその口を、自らの唇で塞ぐ。
どれくらいの時間ここに居たのか…彼女の氷の様に冷たい唇が、熱を持った僕の唇と重なって心地良い。
人目なんて全く気にせずに、僕はただただ夢中で彼女の唇を貪った。
『愛情』と呼ぶよりも、この想いはきっと『執着』に近い。
恐らくは、高校の時から既にそうだった。
彼女が他の男に、僕には見せない笑顔を向けているのを見て…何度こうして唇を奪っただろう。
嫌がる貴方を無理やり捕まえて…僕の元に縛り付けておきたいと、何度強く思っただろう。
彼女の代わりなんか、どこを探したっていない。
今になってやっと、失いそうになってやっとその事に気付くだなんて…もう、遅過ぎますか?
「はぁはぁ…ちょっと、アンタ…何考えてんのよ?」
唇を離すと、彼女はやはり、拒絶するかの如く僕を睨みつける。そして、僕の胸を強く押して、逃げようともがく。
「アンタにとって、私って何なの?ただの暇つぶしのオモチャなら、強引にキスなんてしないでよっ!」
「暇つぶしのオモチャ…そうですね」
そうであれば、どんなに良かったか……
「アンタって最低。私の心を掻き乱して、そんなに面白いの?離してよ。もうアンタの顔なんて、見たくもないっ!」
そう言って彼女は、今日一番の力でドンと僕を押して腕の中から抜け出した。
出会ってから今まで幾度となく言われた言葉に、今日は何故か苦しくなる。
「あっ、更砂ーっ!」
「おっ、初見じゃん!」
急に後方から、僕達の間に男女の声が割り入った。
彼女が、僕に向けていた視線をそちらへと向ける。
「今日は付き合わせて悪かったな。初見に選んで貰って、やっぱ正解だった!」
「ゴメンね、更砂。彼がわざわざ休憩時間中に連れ出したんだって?本当にゴメン」
「そんなの良いですって!指輪、気に入って貰えました?せっかくの婚約指輪を私なんかが選んじゃって、こちらこそゴメンなさい」
婚約…指輪?
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ!婚約指輪を選ぶって、どういう意味ですかっ!?」
僕は思わず、彼女の腕を掴んでこちらへと向かせた。
女の方が僕の存在に気付き、『あっ、霜村…さ、ん……』と戸惑いがちに声を上げる。
「どういう事か、説明してください」
「アンタには関係ないでしょ?」
「関係有るから訊いているんです」
「嫌よっ!」
彼女はまた僕を睨みつけ、バッと僕の手を払う。
「アンタ何様?もういい加減にしてよっ!アンタに振り回されるのは、もうウンザリ。もう二度と私の前に現れないで」
「ちょ、ちょっと更砂…それは言い過ぎ……」
女の方が慌てて、僕と彼女の間に止めに入る。そして、僕に視線を向けて話し始めた。