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粉雪
【大人 恋愛小説】

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粉雪〜もう一つの物語〜-2


「…もしもし」
一週間ぶりに聞く愛しい声。
「連絡しなくてごめん」
「仕事忙しかったの?」
いよいよだ。
「…転勤が決まってその準備で」
彼女が息を飲む。
「どこ?」
「九州」
さらに黙る彼女。全て計画通りだった。
この後彼女はいかないでと僕を止めるだろう。
僕は言う。ずっと一緒だ。
そしてすぐに彼女の部屋をノックする。
彼女は満面の笑みで僕を迎えてくれる。
−しかし、帰ってきたのは違う言葉だった。
「もう、終わりなんでしょ?」
途端に真っ白になる頭の中。嘘だろ?
「じゃあ、元気でね…」
いやだ!そんな訳がない!僕はさらに嘘をつく。
「一緒にきてほしいんだ!」
「え…」
「勝手なこと言ってるのはわかってる」
彼女は僕を愛しているはずだ!
「でも、だめか?」
そうだろ?答えてくれ!
「今日四時の新幹線。待ってるから」
最後まで彼女は何も言わなかった。
不安がよぎる。
早く行って嘘だと伝えよう。今までのことも謝ろう。
その時、慌ただしくドアの開く音がした。彼女だった。
何やら急いでいる。手には少しの荷物…まさか。
彼女は雪の中、一生懸命走っていた。向かった方向はバス停−。
そう、彼女は僕の嘘を信じて駅に行こうとしているのだ。
こんなに雪が降ってる。バスが時間通りくるとは思えない。
でも、彼女はバスを待ち続けた。
僕は逆方向行きのバス停から彼女を見ていた。
彼女は僕に気付かない。気付くわけがない。
駅で彼女を待つ僕だけを見ているのだ。
情けないことに僕は立ち尽くしたまま動けなかった。
彼女はいつもこんな風に僕の嘘に振り回されて傷ついていたのだろう。
寂しい気持ちを隠して、笑顔を見せて、きっと一人で泣いていた。
−幸せだったはずがない。何故そんなことに僕は気付かなかった?
僕にできることは簡単なことだったのに。
もっと会いに行けばよかった。
もっと電話すればよかった。
素直に好きだと伝えればよかった。
それだけだったのに。
もう、僕にはできない。

−四時が過ぎた。
彼女は泣きながら歩きだした。
携帯を取り出し、僕からの着信を探している。

−あるわけがない。
彼女は零れた涙をこらえきれずに、顔を覆った。
そのままとぼとぼと帰って行く。
僕はあまりにも愚かな自分に腹がたって、悔しさに泣いた。
今、走っていけばまだ間に合う。
彼女の凍えた体を温めることができる。
でも、彼女の心はもう元に戻せない。
彼女の好きな僕は九州に行ってしまったのだ。
こんな嘘で塗り固められた僕ではなく−。

いつのまにか変わった粉雪が彼女の小さな背中を消し去った。
僕は頭を下げた。
ごめん、ほんとにごめん…。

彼女には届くことのない僕の言葉。
愛している。
誰よりも。
嘘じゃない。
そんな言葉さえ空しいだけ。

君は粉雪だった。
汚れなき、純粋な白。
汚れた僕の手でつかんではいけなかったんだ。

ああ、くるくると笑う君の笑顔が見えるようだよ。

−空しい幻想。
粉雪がまぶし過ぎて。


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