秋と春か夏か冬01話〜春と夕日と歌声と〜-1
屋上に出るためのドア。そこの上…ここの少しのスペースで寝るのが俺のお気に入りだ。
寝転がりながら少し曇った空を見つめていた。
「美雪……か」
屋上で声が反響しないせいか、恭介の言葉は虚しく聞こえた。
(…あれからもう2年か)
キーンコーンカーンコーン
…あれ?眠っちゃったか。
あたりはもう夕焼けの景色になっていた。
(理緒のやつ…起こしに来てもいいじゃねーか。)
そう理緒に理不尽な不満を持ちつつケータイを見るとメールが2件。
From鈴音『理緒くんは私と一緒に帰るから迎えに行かないわよ。理緒くんは優しいから3人で帰ろうとか言ったけど、あなたは邪魔。そもそもあなたを迎えに行く時間すらもったいないし。でも私も鬼じゃないからロン毛を迎えに行かせたわ』
From拓也 『悪い!お金稼ぐために今日はバイトを入れた。急がないとだから。寝過ごしても死にはしないよ♪親友よ、友情と恋愛は時として恋愛が大事になるものなのだ』
………つっこむ気力なし。
起き上がり帰ろうとすると何か聴こえてくる。
♪♪〜〜♪〜〜〜〜♪♪♪〜
……歌?綺麗な声だ。
すごい上手だな。
…でも…。
なんでだろう?
哀しく聴こえるのは気のせいだろうか…。
あれから何分たっただろう?30分…1時間以上たったかもしれない。それほどこの声に聴き入っていた。
やがて歌声が止む。
俺はしばらくしてから歌声の主に拍手を送った。
ビクッと体を震わせ彼女は辺りを見回している。
少ししか見えないが顔は真っ赤だった。
…だが彼女は拍手の主が見つからないようだ。
(…仕方ない)
そう思って恭介はドアの上から飛び降りた。
彼女からしてみれば、いきなり近くに何か現れたのだろう。
腰が抜けたのかペタッと尻餅をついてしまった。