Need/-ed-6
――違うの?
『あいつを殺す…私をこんな姿にした…あいつらを…』
―嗚呼。
その時、思った。
何故かひどく客観的に。世界の真上から下界を見下ろす何かが、抱いたことがあるに違いない妙な諦めを伴って。
―みんな みんな なんて哀しい愚かな生物だろう。と。
何が、この人をこんなにしたのだろう。
人であることを捨ててまで、この人が求めたのはなんだったのだろう。
絶えずあたしの名を呼び、合間にあたしをさらった風炎を呼ぶ“父親”という名の赤い塊をぼんやり見つめながら、どれだけの間そうやって考えていたのだろう。
いや…考えていた、というのは嘘だ。あたしの頭には、質問や疑問だけがただ波のように押し寄せては、答えを得ることもないまま、再び真っ黒な海に戻ってゆく。
―目は…あたしと同じ目かしら。
すこしつり上がった目は、鬼になったからだろうか?もしそうでないのなら、あたしの目は彼のに似てる。
「ねえ…。」
あたしは、答えを期待しないで呟いた。質問が彼の耳に入ったかどうかもわからない。何しろ、部屋を揺らすような声で、さっきから彼は呪いの言葉を絶え間なくはき続けていたから。
「あ…あたしの、母さんは?」
『死んだ。』
一言だけ答えて、またあいつらを呪う作業に戻った。その…その言い方が、さっき獄が妹を撃ち殺したとあたしに告げた風炎の口調よりもっと温度の無いもので…あたしは…もう、その言葉で諦めた。
―憎しみは人を変える。そうとも。そうやって、獄はあたしを変えていったんだから。人気者のさくらと、一人ぼっちのあたし。夫に愛され、大切にされるあたしと、一人ぼっちのあたし。選ばれた彼女と、捨てられた…もういい。
「…?」
やけに部屋が暑いことに気付いたのは、それから更に時間が経過した後のことだ。着てきたコートはすでに脱いでいた。あたしの身体を震わせるほどの怒りで上昇した体温は、すでに下がっているはずだ。それなのに、コートの下のカットソーを脱いでもまだ暑い。額に浮かぶ汗に気付いて、これは尋常ではないとようやく悟った。
発熱している。
目の前の鬼が、まだブツブツうわごと送り返しながら発熱、いや、白熱していた。それこそ熱せられた金属か何かのように、恐ろしい熱を発散している。
「お父さん!?」
もう、その頃には彼の言葉は聞き取れるものではなくなっていた。駆け寄ろうにも、彼を取り巻く空気が熱さの余り揺らいで、目を開けていることも出来ないくらいだった。眼球の水分すら奪われ、火傷してしまいそうなほど熱い。