Need/-ed-11
「それなのに…君に興味を持ってしまった。もっと知りたいと思った…。そんな資格は、この僕にあるはずもないのに。」
あたしは、風炎の腕から抜け出した。
「そうね。」
彼の言葉はそこで途切れ、あたしは振り向かずに言った。
「じゃあ、死んで贖(あがな)うよりもっと簡単なことをしてもらうわ。」
振り返ると、風炎の目とあった。彼の美しい金の髪よりも、もっと深くて濃い、濃金の瞳。
「一生あたしのそばに居て。」
そして、背伸びして彼に口付けた。
「一生、あたしの名前を呼んで。あたしが呼んだらかならず答えて。」
「そんなことで、いいのか?」
あたしは答えた。
「そんなことが、いいの。」
―それが、ずっとあたしが欲しかったもの。
そして、あたしがあげられるもの。
死より他に二人を分かつものはなく、
愛より他に二人を繋ぐものは無し。
生ける間はその手を以て樹を育み
死した後はその身体を以て土を育まん
悪しきを正し、正しきを貫かん
苦楽を分かち、共に歩まん
己(おの)が血の為 己が血を継ぐ子の為に
この祝詞(のりと)を以て 我ら夫婦の誓約を成す。
朝の光の中で、初めて聞く風炎の歌声は美しかった。聞いた事の無い言葉は、ずっと一緒にいた彼の知らない部分を露にした。それでも、不安は感じなかった。不安を感じさせないほど、その歌は優しく、慈愛に満ちていた。
聞きほれるあたしを見て、微笑んだ顔に、不意に恥ずかしさがこみ上げる。逃げたいような…ちょっと待って欲しいような…そんな中途半端なあたしの頭に手が触れる。今まで意識したことも無かった、華奢で、綺麗な手。その手が冷たくて、自分がどれだけ熱いのか、思い知らされた。
「怖い?」
うなずく。嘘はつけなかった。あたしの何かが暴かれるような予感がして…同時に、あたしが知らない風炎を見せつけられるような気がした。触れた事の無い、風炎の唇が、躊躇いがちに額に落ちた。横になるあたしの上に屈みこむその体…そう、当たり前のことだけど、彼は男で…当然男らしい体つきをしていて、そして力強い。意識して、触れてみたくなる。硬い首筋にそっと触れると、何故かそれだけで安心した。
目を閉じて…風炎のキスを受け止めた時…あたしは生まれて初めて、安堵の涙を流した。
「泣かないでほしい、茜…どうしたらいいかわからなくなる。」
抱きしめる風炎の声は、聞くたびに新しい感情を持つ。多色刷りの版画が、完成していくのを見るように。すこしうろたえる彼が面白くて、愛おしくて、今度は笑ってしまう。その目元からこぼれた涙を、風炎の舌がさらった。あたしの顔を見て、風炎が言う。