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「集結する者たち」
【ファンタジー その他小説】

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「集結する者たち其の二〜榛原陽介〜」-1

榛原陽介は、その日死んだ。
死因は刺殺。鋭利な刃物で心臓をグサリ、だ。
己の信じる者に、
己の愛する者に、
彼は殺された。
自ら望んで、殺された。
「陽介!」
誰かの悲痛な叫び。その誰かは、陽介にはもう分からない。彼には声が届かない。
「陽介!陽介!」
でも陽介には予想がついた。
こいつは、きっと……。
「陽介ぇ!」
己の信じる者で、
己の愛する者だ。
「ぁ……」
最後に陽介は、その者の名を呟き、
「く……ずりゅ……う……」
そして、絶命した。



「……?」
榛原陽介は、不思議な気分だった。
(僕は、死ななかったか?)
疑問に思う。
思わなければいけない。
陽介は、かつての自室で横になり、天井を仰いでいたのだから。
胸を触る。特に異状は見られない。傷一つないのだ。
(……もしかして、今までのは……)
陽介に嫌な予感が走った。それはすべてを打ち砕く言葉。それを口にしてしまったら、冒頭はどうなるんだよ、と心中で陽介は呟く。
それでも、陽介は口にしてみた。
「夢オチ……?」
有り得る。陽介にはそう考えるより他、この状況を説明出来る頭脳を持ち合わせていない。
とりあえず起き上がる。周囲を見回しながら、陽介は確信した。
僕は夢を見ていたんだ、と。
壁にハンガーで掛けてある学生服は、陽介の中学校の制服だ。夢の中の自分は、ボロボロの学生服を着ていた。まず夢だ。
次に机。その上に置かれている物は、小説や漫画、辞典に教科書、小学校の卒業アルバムなどなど。平凡味溢れる机じゃないか、死にまつわる物なんか一つもない。夢だ。
陽介はそうやって今までの事が夢であると確認していく。
と、
「誰のおかげで飯食えてると思ってんだ!」
「うるさいわね!あなたこそ私がいなきゃ家計を破綻させちゃうくせに!」
「なんだと!」
「反論があるなら言ってみなさいよ!」
「このアマが……!ちょっと優しくしてやったらつけあがりやがって!」
そんな、一階で行われている夫婦喧嘩が二階まで聞こえてきた。無論、陽介は二階にいたわけだが。
(また始まったか……)
そう思いながら、陽介は階下に音をたてずに降りた。どうやらリビングで喧嘩しているらしい。今日のテーマは金。
それはいつもの事だ。二人は毎日のように喧嘩をする。仲が良かったのなんて、陽介が中学に上がる前ぐらいまでだった。より正確に言えば、陽介が有名私立中学校に合格し、通い始めて数ヵ月経ったあたりからだ。どうやら家計が苦しくなったのが原因のようだ。
リビングへの扉の前に立ち、陽介は“今まで”を思い出していた。


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