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「集結する者たち」
【ファンタジー その他小説】

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「集結する者たち其の二〜榛原陽介〜」-2

今までは、喧嘩が始まると同時、逃げるように外に出ていた。用事もないというのに、陽介は出ていたのだ。だがそれは“ように”ではなく、逃げていたわけだが。
その度に陽介は考えた。
この夫婦、近々離婚するな。
呑気に、考えていた。
僕はどっちについていくのだろうな。
他人事のように、考えていた。
将来的に結論を出すなら、父親の方だよな。私立中学を受験したのだって、あいつの勧めがあっての事だし。
まるで親を親とも思わず、考えていた。
働き者で、仕事場ではかなり上の立場にいて、貯金も腐るほどあるくせに、家計には給料の三分の一を入れる程度。ケチな父親だな。そんなに私腹を肥やしたいのかよ。……まあ、だからこそそっちに行った方が、僕の将来的に良いんだけど。
毎日毎日がつまらなくて、家にいても息苦しいだけ。だから外に出る。
後ろ手に家の戸を閉める時、陽介は思うのだ。
あーあ、だるっ……。



なのに、今は不思議な気分だ。さっきの気分を引きずっているのかもしれない。でなければこんなことは思わないだろう。
ばん!
と陽介はリビングの戸を乱暴に開けた。両親は、幾分驚いた面持ちだ。
「うるさいんだよ。少し静かにしてくれ」
陽介はゆっくりと言い放った。目線はしっかりと彼らを見据えている。
「……子供が口を出すな!これは大事な事なんだ!」
だが父親は反論した。激しい顔つきからは以前の優しさが微塵も感じられない。
それに加勢するかのように、母親までが出て来る。
「そうよ!あんたは黙ってなさい!」
その偉そうな母親の態度が気に入らなかったのか、父親は彼女を睨み、
「お前が黙れぇ!」
メチャクチャな事を叫びながら拳を握った。殴る気だ。
が、それを陽介が許す道理はなかった。
「やめろ」
がっ、と。
陽介はその手首を掴み、殴るのをやめさせた。
今までの自分ならば、確実に逃げていた。なのになぜだろう。
“今”の榛原陽介は、“今まで”の榛原陽介に対して、激しい怒りが込み上げてきた。なにも出来ずに逃げた自分が、とても腹立たしいのだろう。
だがなぜだ。なぜこんなにも腹立たしいんだ。
(分からない……けど!)
ばきっ!
「うぐっ!」
陽介は、父親の顔面を思いっきり殴った。その衝撃か、父親は吹っ飛び、まともにテーブルにぶつかる。
(分からないけど……こいつらが間違ってる事だけは分かる)
そんな父親を一瞥し、今度は母親に向かう。母親は床にくずおれていて、上目遣いに陽介を見ていた。なぜか嬉しそうに。
「陽介……あんたもそいつが嫌いなのね。私も大っ嫌い!だから、一緒に行こっか」
母親は陽介が加勢に来てくれたのだと、
勘違いしたらしい。
「どこにだよ」
陽介は問う。その瞳には、怒りの炎が燃えていた。
「え?」
訳が分からない、といったような表情をし、呆けている母親を見下ろしながら、陽介は、
ぱんっ、
「……え?」
と、パーでその頬を叩いた。それは父親ほどの威力ではないが、心に大きな傷を負わせた。
陽介は背中を二人に向けるように移動し、そして言ってやった。
「喧嘩両成敗……誰とも仲良くしろ……喧嘩はするな……それらの言葉を僕に与えたのは、誰だ?」
「……っ!」
二人がその言葉にバツが悪そうな顔をした。聞き覚えがあるからだ。
その言葉を陽介に与えたのは、両親だった。
「あんたら両親だろうが!」
そこで陽介は叫んだ。
それは心からの咆哮。
怒りの咆哮。
「それなのに、あんたらはその言葉を与えた本人を前にして、毎日喧嘩か?説得力ないにも程がある。ふざけんな。だったら、最初からそんな言葉を口にすんな。自分の言葉と裏腹な行動をするなら、最初から口にすんじゃねぇ」
そこまで言い終わると、すっとした。まるで“今まで”を払拭するかのようなこの行動に、すっとした。
奇妙な満足感に包まれた陽介は、黙ってリビングから出て行った。


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