闇よ美しく舞へ。 6 『むじな』-3
「だから言ったろ! 俺はのっぺら坊なんかじゃ無いって!」
「ああ〜悪かったよ。疑って悪かった。……しかしだな、本当に見たんだよ、俺は確かにこの目で見たんだよ、女の子の『のっぺら坊』を」
そう言って言い訳をする男に、何やら落ち着いた趣(おもむき)でもって、こんどはイケメン店員が言い出した。
「俺も悪かったですよお客さん! お客さんは嘘なんかついちゃいない」
「おおー! 信じてくれるのか兄さん!!」
「信じるも何も…… だってほらっ!」
そこまで話すとイケメンくん、黙ってレジカウンター脇にある『おでん鍋』の蓋を取り、蓋に付いていた水蒸気を布巾(ふきん)で拭き取ると。今度はそれを客である男の目の前に、鏡の様にして掲げて見せたりもする。
スチール製の鍋蓋は、まるで鏡のように男の顔を映し出し。男はそれを覗き込んでいた。
すると男、自分自身の顔が映っている鍋蓋を見るなり、こんどは息を止め、目を皿の様に広げて、身体をガタガタと震わせ始めたではないか。
それもそのはずである、鍋蓋に映っていたのは紛れも無く、髪の毛は元より、目も鼻も口も無い『のっぺら坊』だったのだ。
「ギャッギャーー! のののっノッペラボーー!!」
驚いた男は、大声で叫んだかと思いきや、慌ててコンビニから飛び出すと、何処(いずこ)かへと逃げ去って行った。
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「キャハハハーー!」
「見た見たぁー! 今の見たぁ! あの慌てよう、あー可笑しい!!」
自分の顔がのっぺら坊だと解かり、驚いて逃げ出した男の事を、コンビニ店内の雑誌コーナーで、マンガ雑誌片手に見ていた美闇と白嶺、滑稽(こっけい)過ぎる男の慌てっぷりに、息が出来ないくらいに大笑いをしていた。
「これに懲りたらもう、女の子にいたずらしようなんて思わないでしょうね。って言うかあの人、もう夜の街は怖くて出歩けないかも」
「だと良いんだけど」
どうやら男をのっぺら坊にした…… いやはや、そう思い込ませたのは美闇の仕業だったようである。
恐らくお尻を触られた仕返しにと、男を懲らしめるべく、イタズラをしたのだろう。
そうやって美闇と白嶺、二人して楽しそうに笑っていたその時である。
「おいそこの中坊っ! いつまで立ち読みしてるんだ! 用が無いんだったらさっさと帰れよ!」
れいの茶髪店員が、そんな事を言って来たではないか。
二人は「ムッ!」っと顔を膨らませると。
「なにこいつ! 偉っらそーにっ! 感じ悪ぅー!!」
「中坊ってなによ! 失礼しちゃうわね! 高校生よっ! ……ねえ美闇、頭来たから、こいつもやっつけちゃう?」
「う〜ん…… それはまた今度にしましょ」
おしまい。