jam! 第6話 『穴だらけの街』-1
――その店は、ごく目立たない場所にあった。
街の中心部であるアーケード。その通りから一本外れた路地にひっそりと立つ、落ち着いた雰囲気の店。
喫茶店『ハイロウ』。
間もなく日も落ちるという時間に、僕らはこの場所へ来ていた。
カランカラン……
ドアベルが鳴る。
時間が時間なので、もう店内には他の客はいないようだった。
「いらっしゃいま…」
「やーもりーん。来てやったぞー!コーヒーくれ」
挨拶――ついでに注文までしたのが二階堂さんだと気付くと、マスターは隠そうともせず嫌っそぉ〜な顔をした。
「……なんだ秋次か。その『やもりん』ってのはやめろといつも言ってるだろ」
「なんだよ。『もりや』だから『やもりん』でいいじゃないか別に」
「よくないよ。あぁ、悠梨ちゃんもいらっしゃい。
…おや?そちらの君は?」
「あ、僕は……」
僕の言葉をさえぎり二階堂さんが言った。
「前依頼人にして、現在はウチの助手二号。リショー君だ」
「あ、どうも。神風 利政です。リショーって呼ばれてます」
「どうも。俺は守屋 宗一(もりや そういち)。この店のマスターをやってる」
「よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく。ちなみに『やもりん』とか言ってるのはこのバカだけだからマネしないように」
店のマスターこと守屋さんは、見た感じ二階堂さんと同じくらいの歳だろうか。
……二階堂さんよりは落ち着いた感じではあるが。
「ま、挨拶はこれくらいにして……。やもりん、早速だが仕事の話だ」
守屋さんは『やもりん』に反応して顔をしかめたが、無駄だと悟ると諦めてため息をついた。
「……はぁ。……何だ」
「最近おかしなのが出るらしくてな。なんか聞いてないか?」
「……その情報だけじゃ、なんとも。最近か?」
「聞いた話じゃ割と最近だ。この一週間ぐらいだったかな?」
その問い掛けに僕が頷く。
「…ふむ。最近、お前が始末した念魔以外にも多数の事件が集中して起きてるからな……場所は?」
「蒐蓮寺(しゅうれんじ)裏手の墓地です」
その言葉に守屋さんが表情を変える。
「っ! 蒐蓮寺だと…?」
「何でも首無し幽霊が出てるらしいぞ。何か聞いてるか?」
「首が?……事実だとしたら、場合によっては厄介だな」
守屋さんも二階堂さんと同じく『首が無い』事が気になるようだ。