jam! 第6話 『穴だらけの街』-2
「……分かった、調べてみよう」
そう呟くと、前で手を組み、
「――『忌避』(いまびき)」
一言。
同時に守屋さんの手に淡い光が生まれ、…それもまた一瞬で消えた。
悠梨ちゃんの『死界』を連想したが、アレとは違って別段景色が灰色に変わったりはしていない。
「な……何ですか、今の」
「あぁ、結界の一種だよ。悠梨の『死界』みたいな」
二階堂さんが答えてくれた。それを守屋さんが引き継ぐ。
「『忌避』という。簡単に説明すると、この店を外から感知できなくしたんだ。」
……感知、できない?
「例えば、今この店の前を誰かが通ったとする。しかし、その誰かはここを『気に留める』事ができないんだ。人間で言えば『影が薄い人』みたいな感じかな」
「えーっと、つまり……見えてはいるけど、目立たないから結局見つからないって事ですか?」
守屋さんは頷いた。
「飲み込みが早いな。……今からやる仕事はちょっと特殊でね。万が一好奇心旺盛な他人に見られると面倒なんで、結界を張らせてもらった」
「…まぁもともとこの店の存在感なんて、あって無いようなもんだけどな」
「うるさい!ほっとけ!」
二階堂さんが茶化して守屋さんが律義に返す。
……仲いいなぁ。
「ったく…。……始めるぞ」
守屋さんが再び手を組み、後ろを向いた。
その先には、まるでアンティーク品のように店に溶け込んでいたので気付かなかったが……、僕達が住んでいるこの『霧生(きりゅう)市』の古い、大きな地図があった。
「『封陣転写』」
その言葉と同時に地図に薄く光の線が輝き出す。
光の線は市全体を巡っていたが、その囲いの中に五ヶ所だけ、光が一際強い点があるのに気付いた。
「…さて、と。これが今この市に張り巡らされている陣の全体像だ」
「陣……ですか?」
「一回起動したら力を追加しなくても発動し続ける便利な結界だ。……ま、その分準備にはかなりの時間がかかるんだが」
「でも、何でそんなものがこの霧生市に……?」
僕の疑問は当然だろう。
今まで17年程生きてきたが、そんなものの存在は聞いたことも無かった。
……まぁ、二階堂さん達に会うまでは結界の存在すら信じなかっただろうが。
「それを説明するにはこの霧生市の歴史について知る必要があるな」
「霧生市の歴史……ですか?」
「まだ探査にはしばらく時間がかかる。秋次、その間に簡単な説明を頼む」
「…だそうだ。悠梨、任せた」
頼まれた瞬間悠梨ちゃんに速攻スルー。
「イヤです。拒否します。頼まれた事くらいたまには自分でやってください」
速攻で断られた。
「……しゃーないな。面倒くさいけどリショー君の為に説明してやるか」