桜が咲く頃〜鈴と矮助〜-1
ここは大笑(おおえ)
沢山の人が集まる街。
この国の中心部。
俺、山村矮助(あいすけ)は今、大野常吉という国の運営に関わる大っ事な人物の護衛をしている。
大野の家には、50人程の剣士が住みこんでいて、
俺もその50人の一人だ。
そして先週、新しい人物が護衛に加わった。
それが変なやつで、名前は鈴(りん)。
けど、鈴というのは本名ではないらしい。
大野が
『名前は何だ?』
と聞くと
『名前はない。好きなように呼ぶといい』
というので、大野が鈴と名付けた。
なんでも由来は、戦い方が、鈴のように軽やかな身のこなし方、だかららしい。
センスねぇ〜…
あっ、鈴の変なトコは他にもある。
例えば…俺たちは、10人1グループに分かれて、1グループにつき、1部屋与えられる。
食事をするのも、寝るのも、その10人なんだ。
俺と鈴は同じグループで、鈴は皆と一緒にご飯は食べるが、一緒には寝ない。
どこで寝るのかというと、廊下の柱に寄りかかって寝る。
まだあるぞ、昼間は外に遊びに出掛ける人もいれば、自分の部屋や、違うグループの部屋に行って過ごす人など様々だが、鈴はというと…
庭にある大きな木に登って、そこで過ごす。
そしてそして、何より気になるのは、その容姿!
小柄で手足も細く、女の子のような顔立ちをしているのに、剣はとぉっても強い!!
このような変わり者なので、入ってきて早々に目立ち、皆の注目の的となった。
ある日の昼間。
とても良い天気で、遠くからは子どもたちの笑い声が聞こえる。
俺は思い切って、鈴に声をかけてみた。
といっても、鈴は木の上なので、俺もそこまで登らなくては…
『よう、鈴。』
鈴の座っている枝より下にある枝に立ち、声をかけた。
無反応。
俺は更に続ける。
『俺、君と同じグループの山村矮助。
わかるかな?』
まったくもって、無視!
う゛〜ん、どうしよう…と思ったとき、鈴の向いている方向から、ふわっと風が頬をかすめ、葉を鳴らしながら通って行った。
俺は思わず風がやって来た方を見る。
するとそこには、沢山の家や大勢の人が賑わう姿が広がっていた。