桜が咲く頃〜鈴と矮助〜-3
『やばいってどういうことだよ?』
俺から見て、奥にいる人が聞き返す。
『なんでも、反物屋の笹屋と手を組んで、悪どいことしてたのがバレたらしくて、近々奉行所が踏み込むらしいぞ』
得意そうに話す男性。
『マジかよ〜』
『マジだって!
俺の彼女の親父のいとこの息子の友達の親の甥が奉行所に勤めてるんだから!』
『……信じていいのか?その話…』
俺はこの話を鈴にしてみた。
『それが?』
『それがって…もし本当なら俺ら職を失うんだぞ。
場合によっては、事情聴取とか言って、何日も牢やに閉じ込められるかもしれないし…』
『仕事はまた見付ければいい。
閉じ込められるとしても、何もしていないんだ。
そのうち出られるだろう。』
なんとも、あっさりとした答え…
『鈴は気にならないのか?
自分が護衛する人が、どんな人なのか』
『知ってどうなる?
いい奴だったら力を入れて守り、悪い奴だったら力を抜くのか?』
『それは…』
『俺は、金さえ貰えればそれでいい。
護衛する人物が、どんな奴だろうと関係ない』
そう言い切った鈴は、とても鋭く、ひどく、悲しい目をしていた…
今日は雨。
ここのとこずっと雨が降り続け、皆ストレスが溜ってきていて、だんだんとピリピリしてきていた。
こんな日でも、俺達が護衛する大野は仕事があるらしく、鈴や他五名を連れて、朝から出掛けて行った。
突然家が騒がしくなったのは、皆で夕食を食べようとした時だった。
朝は籠に乗り、六人の護衛と共に出掛けた大野が、鈴と二人でずぶ濡れになって帰ってきた。
大野の話によれば、仕事帰りに五人組の男達に突然襲われたらしい。
街中でどうどうと襲ってきた奴らは、それぞれ鈴に傷を負わされ、逃げ帰った。
鈴は大野を無傷で守ったが、自分は背中に大きな傷を負った。
そして、鈴以外の護衛は…皆、死んだらしい…
大野の話を聞いて、どんな相手なのか興奮気味な話しながら、皆夕食を食べに部屋へ戻って行った。
俺は、傷を負った鈴が心配で急いで部屋に戻ったが、鈴はいなかった。
俺は会う人会う人、片っ端から声をかけて、鈴を探しはじめた。