恋人達の悩み4 〜夏一夜〜-2
数日後。
「……は」
冷たい素麺を啜り、竜彦は呆れた。
「ずいぶん理解があるっつーか、理解があり過ぎるというか……」
――ここは、高崎家のダイニング。
職場の定休日で家にいた竜彦と、龍之介は夕食を囲んでいた。
そして竜彦の許可を得ようと、少しびくびくしながら美弥のお泊りを申し出た所である。
「んじゃ俺は、家から出てた方がいいか?」
龍之介は素麺を吹いた。
「兄さん!?」
竜彦は、ニヤッと笑う。
「何だ、まずいのか?」
龍之介は、兄の事をひたと見据えた。
「何で……どうして兄さんは、そんなに協力してくれるの?」
前からの疑問を、龍之介はぶつける。
聞きたくても、何となく聞けなかった事を。
別に邪魔をして欲しい訳ではないが、かといって看過するには協力的過ぎる気がして、以前から気になっていた。
「俺はお前に対して負い目がある」
素麺を啜った竜彦は、ぽつりと答える。
「俺が恵美へ揺れさえしなければ、お前はもっとまっとうな状態で成長できていたはずだ。だから……罪滅ぼしにもならない自己満足で、俺はお前に協力してる。美弥ちゃんが過去を知った上でお前をきちんと支えているのは凄く感謝しているし、もっと協力したいと思ってる」
「兄さん……」
龍之介は、唇を噛み締めた。
そう言う竜彦だって本当は、かなりな傷を受けている。
何度も抱いたであろう婚約者を、たった一度で童貞だった自分に寝取られたのだから。
「……ありがとう」
そして、夏休み。
美弥にだってプライバシーがあるのだから一ヶ月も一緒だとさすがに自分の部屋へという訳にもいかず、龍之介は両親に断りを入れて寝室を空けた。
客間もあるにはあるのだが物置と化しているので使えないし、竜彦の部屋など論外である。
しかし……約一ヶ月の間、夜は互いの部屋で過ごすんだろうなと二人は予想していた。
「……っぷう」
引越しの如き荷物を龍之介に手伝って貰って部屋に運び込んだ美弥は、リビングに落ち着く。
そして龍之介が出してくれた麦茶を喉に流し込み、同じく出してくれていた蒸しタオルで汗を拭った。
肌に触れた瞬間は熱さで顔をしかめてしまうが、すぐにヒヤッとして非常に爽快である。
「お疲れ様」
コップへ麦茶を注ぎ足してやりながら、龍之介は笑った。
少し胸元の開いたサマーニットにショートパンツという夏らしく露出度満点の格好をした美弥は、ちらっと龍之介を見る。
龍之介の目線は明らかに、開いた胸元と剥き出しの太股に注がれていた。
「すけべ」
白くて肌理の細かい肌に視線が吸い寄せられていた龍之介は、その言葉に目をきょとんとさせる。
恋人が目の前で肌も露な格好をし、胸元と太股というセックスアピール満点の箇所をせっかく曝してくれているのだから、注目しない方がおかしい。
「すけべっていうのは、こういう事でしょ?」
龍之介は悪戯っぽく微笑み、美弥の内股へ手を割り込ませた。
「きゃっ!?」
美弥は思わず、足を閉じてしまう。
その隙に龍之介は美弥の顎に手をかけて上向かせ、唇を重ねた。
「ん……」
舌を絡められ、美弥の喉が甘く鳴る。
「……これがすけべ」
龍之介は、耳へ息を吹き掛けるようにして囁いた。
「……」
美弥は龍之介の服を掴み、手を挟んだままの太股をもどかしそうにもじもじさせる。
「もしかして、火ぃ着いた?」
美弥は不可思議な唸り声を出した後、頬を赤く染めて頷いた。
「じゃ、解消して差し上げましょうか」
龍之介はくすくす笑い、再び唇を重ねる。
「んん……」
美弥が甘く喉を鳴らすと、太股から手を抜いた龍之介は立ち上がって美弥を抱っこした。
「ここじゃまずいから、部屋で……ね」
もしかしてこうなるんじゃなかろうかと考えて部屋にしっかり空調を効かせていた、なかなかにあざとい龍之介である。
「……ん」