恋人達の悩み4 〜夏一夜〜-17
さて、翌朝。
「あ、トシヒコ?あ・た・し。アクアランドの近くにあるファミレス、知ってるわよね?今から来てちょうだい。それじゃ」
それだけ言うと、瀬里奈は電話を切った。
「……で?」
薄いコーヒーを飲みながら、龍之介は不審そうな声を出す。
美弥と寄り添ってゆっくり眠っている最中に瀬里奈から叩き起こされたため、龍之介は不機嫌だった。
「あの彼氏と何があった訳?」
原因は、それくらいしか考えられない。
「別に……愛想が尽きただけ」
しれっとした顔で、瀬里奈は言う。
「一緒の部屋に泊まるから今夜はOKなんて思われたくなくて、あたしアイツとは別の部屋に泊まったのよ」
言って、アイスカフェオレに口をつけた。
「と・こ・ろ・が。あいつってば『約束が違う!』とか喚き出しちゃってさあ。あたしは、何も約束してないし。それにこう見えて、付き合う前に体を許すような女じゃないわ」
龍之介は肩をすくめる。
「はたから見てれば生殺しと同じ状況だから、彼氏が怒ったのも仕方ないんじゃないの?」
瀬里奈は、フッと鼻で笑った。
「付き合う前に暗黙の了解なんて曖昧なモノで体を要求して、断られたからって怒るような根性のない男、こっちから願い下げよ」
強気な発言に、龍之介は内心呆れる。
「ま、どんな男をキープしようと勝手だけれど、美弥に迷惑はかけ……」
ズシッ
肩へ急に重みが加わったため、龍之介は言葉を切る。
「……どうりで喋らないと思った」
瀬里奈に叩き起こされたせいで寝不足だったのか、美弥は龍之介の肩に頭を預けて舟を漕いでいた。
「……ほんっとにこの子ってば……」
呆れた口調で、瀬里奈は言う。
龍之介は、困ったように頬をかいた。
「長く眠らないと駄目なタイプみたいだから……無理矢理起こされたせいで、睡眠不足だったみたいだなぁ」
その言葉に、瀬里奈は仰々しく肩をすくめる。
「愛あるフォローあ・り・が・と」
「あのね……」
龍之介は、げんなりしたように言った。
しかし体の方はそのまま美弥が寝やすいような姿勢を取っているのだから、瀬里奈からすれば何とも微笑ましい。
「愛されてて、羨ましいわあ……」
ぽつりと呟くと、瀬里奈は立ち上がる。
「そろそろ来るかな。あたし、ちょっと見て来るわ」
「早いなオイ。」
瀬里奈がくすりと笑ってウィンクした。
「フットワークの軽い男、一人はキープしておかなきゃね」