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飃(つむじ)の啼く……
【ファンタジー 官能小説】

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Dawn-1

まるで、明け方の海。

潮が、昇る朝日を目指してひいてゆく様に、それは似ていた。

運命の潮流はゆっくりと、だが確実に、彼らを戦いの運命へと導いてゆく。磁力に引き込まれるように、交わることのない平行線が一つの行き先を目指す。終結へと向かう道程の、いまだ闇の中に冥(くら)く沈んだ先に何があるのか。いまはただ漠然とした焦燥感と絶望感と、根拠のない希望だけが彼らの足を進ませた。



八百万(やおよろず)の神々たちが、この世のもの達から忘れ去られて久しい現代に、半ば必然的に発生した“穢れ”の実体、澱みに真っ向から戦いを挑んだ狗族達の戦いは、激化の一途を辿り、その攻防の模様は狗族以外の神族の耳にも届いていた。行く末を見極めるべく静観するもの、滅亡を覚悟するもの、絶望に打ち震えるもの…わずかな希望に賭け、力を貸す決意を固めたもの。

そして…待つ者。

狗族と澱みの戦いが、その火種を広げ、更に多くの種を巻き込む大戦になる時を。不穏な動機からではなく、全てのものが、自らの命を賭すにあたいするこの戦の価値に気付く時を。それは狗族にとっても、他の種族にとっても必要なことだ。

忘れられ、存在意義を失ったまま、風に運び去られるのを待つ襤褸(ぼろ)切れのように永らえる八百万の神々達が、たしかに存在したという証を残すに値する大きな戦。



それほどの大戦になるべき最後の戦いの勃発はあまりに間近にせまり…拒もうと拒むまいと、大きな潮流は、すでに多くのもの達の足元をさらって、戦いの運命へと誘っていた。



そして今、また一人。



++++++++++++



―こんな宝石の海に…
上空127メートルから、重力の法則に導かれるまま真っ直ぐに落下しながら、イナサは思った。
こんな宝石のような街に住んでいる人間が、何を思い煩うことがあるのだろう、と。
人間の負の感情を喰らいに喰らって、空を覆うほどに巨大化したこの化け物は、落ちてゆくイナサを空中でいたぶって、その尾で絡めてまた上空へ放り投げる。

この化け物をここまで肥大させるほどの悲しみや憎しみが、この街の何処から生じるのか。イナサはあくまで冷静だった。
圧倒的に不利な形勢。痛み分けも、相打ちも叶わないだろう。ただ、時間稼ぎにはなる。澱みの首領の求めに応じ、こいつがあの病院にゆくのは、わずかに残った私の生気を吸い付くした後。それまで精々しぶとく生き延びてやると…イナサは決意を固めた。

『…!』
胴に巻き付く鞭のような尾に、破魔の呪を叩き込む。
小さな雷のような閃光がひらめき、澱みの尾が一瞬弛緩した。

片腕と2本の足に、有りっ丈の力を込め、今度こそ真っ直ぐに地面に向けて……イナサは飛翔した。


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