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千から始まり零に繋がる物語
【ファンタジー その他小説】

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鏡界線-1

──わたしは、誰でしょう──

『案内人』が言ったその言葉の意味が、わたしには全く理解できなかった。

ここ数日の間、十六歳のわたしはこの館に二度訪れた。そこで出逢ったのが、この女性……自らを『案内人』と称し、わたしにいくつかの不思議な物語を聞かせてくれている。
彼女は、それらの物語を、さも自分が視たように語り、わたしを魅了していった。
前回ここに来た時には、『千から始まり零に繋がる物語』という題目の物語を聞かせてくれた。哀しく罪深き男のお話だった。
そして、今日は『夢視の姫』というお話を聞かせてくれた。夢と現実を行き来する少女と、とある男の物語だった。
わたしは、この双つの物語に共通する項を探りだし、『双つのお話に登場する男は同一人物である』ということを見破った。その達成感は、しかし何かわたしに引っ掛かっていた。

そして、今──
案内人は、そんな問いをわたしにぶつけてきた。『わたしは誰でしょう』などと言われても、まるで見当が付かない。それはこっちが訊きたいくらいなのに。
しかし、案内人はあえて問うた。まるで、わたしに応えて欲しいと言わんばかりに。
しかし、わたしはそれに応えられない。どうしようもなく、わたしはうつむいた。
「そうよね。いきなり訊かれても、解らないわよね……」
案内人は、哀しげな面持ちでそう言った。
わたしの唇は、何かを言いたげにぱくぱくとただ開閉しているだけで、そこから言葉は紡がれない。
「良いのよ、無理をしないで。ほら、もうお帰りなさい」
その瞬間──
「──ペシェ…」
わたしの唇は、不意に言葉を紡いだ。
「……え?」
案内人は、驚きと嬉しさの混じったような曖昧な表情で訊き返してきた。
「今、何か言ったかしら?」
わたしの直感が正しいのなら、彼女は──案内人は──っ!
「あなたは……〜桃〜ペシェ?」
わたしが発した言葉に、案内人の瞳が大きく見開いた。
「本当に…………?」
彼女の言葉には、信じられないというような感じよりも、待ち望んでいたというような煌めきがあった。
「本当に……覚えていたの?」
「あなたは、物語の中の少女──ペシェ……」
わたしは、今度は自らの意思をもって言った。案内人の表情は、次第に笑みへと変わる。
「あなた……やっぱり、本当にあの子なのね!」
彼女にはわたしと面識が在るようで、久々の再会のようにそう言った。
だが、わたしにはその意味が解らない。
すると──
「あなたには、ある人から伝言を頼まれているの。だから、最期にこの物語を捧げるわ…………」
そう言うと、彼女はわたしに近寄ってきた。
そして、抱擁──
「あなたに捧ぐ、最期の物語……タイトルは、『鏡界線』──」
彼女は、わたしを抱きかかえたまま語りだした…………




男は一人、街を歩いていた。ただ、何をするでもなく。
彼は、職と妻を失い、彷徨っていた。自身に絶望し、成す術もなく……。
そんな中、ある一人の少女が近寄ってきた。人形のように、純白の肌をもつ少女だった。
彼女は、男の横に止まって、いきなり彼の腕を引いて走り出した。
男は訳が解らず、ただ少女についていった。
辿り着いた先は、綺麗な森だった。そこで、男は少女に触れようと手を伸ばした。そして、世界が反転した。


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