投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

千から始まり零に繋がる物語
【ファンタジー その他小説】

千から始まり零に繋がる物語の最初へ 千から始まり零に繋がる物語 7 千から始まり零に繋がる物語 9 千から始まり零に繋がる物語の最後へ

鏡界線-2

男は、いつの間にか、出ていった妻の部屋の鏡の前に立っていた。そして、透き通った声が彼に問うた。
未来を信じてリアルを生きるか、全てを投げ捨て鏡の世界に生きるか──彼は、しかし、前者を選んだ。
鏡の向こうの世界が、偽りの安楽だと気付いたからだ。だから、男はあえてリアルに生きる路を選んだ。
すると、鏡は消え、その跡から光が立ち登り、一人の少女が出てきた。そう、紛れもなく、あの、街で出逢った少女だ。
彼女は、男にこう告げ、消えていった。

──この輪廻の世界では、誰もが偽りの鏡の世界へと繋がっています。その誘惑に打ち勝ったあなた…どうか、彼らを助けてあげてください。簡単なことなのです。そう、心から愛する誰かに、物語を伝える、ただそれだけ──

こうして彼は、案内人となった。

彼はその後、新たな職と妻とを手にし、一人の娘を授かった。名前は、あの日出逢った少女の名をとり、〜桃〜ペシェと名付けた。

ある日、あの日のように一人で街を歩いていた男は、一人の少女─ペシェ─と出逢う。彼女は、夢と現実とを行き来し彷徨う、鏡に惑わされし少女だった。
案内人たる男は、鏡の向こうへ行き、彼女の夢に介入した。そして、鏡の向こうへは二度と戻らぬようにと注意を促した。しかし、彼女はそれを無視し、鏡の世界の住人となってしまった。

貧しかった彼女は、ある日、神に願ってしまったのだ。

──お姫様に産まれたかった──

鏡は、それをリアルに仕立て上げてしまった。少女は、夢と現実の区別がつかなくなり、ついに鏡の世界に閉ざされてしまったのだ。
男は嘆いた。自らは少女に救われたのに、自分は少女を救うことができなかった、と。

しかし、鏡の向こう──偽りの世界に、彼女はまだ生きていたのだ。
ずっと、幾億の時を越え、姫たる少女は鏡の世界で目覚めた。そこは、荒れ果てた世界だった。
少女は後悔した。何もできなかったから。そのショックは、十六の彼女にはまだ大きすぎた。
彼女は、その晩、海に墜ちて逝った──

死後の世界で、その少女はある一人の少女に出逢う。二人とも、名前は〜桃〜ペシェ──
鏡の世界に死んだ少女が出逢ったのは、まさに自分だった。
そう、彼女は、あの時に現実を生きると決めていた場合の、真の幸せを掴んだ自分。その少女は、死んだ少女にこう告げた。

──わたしは、あなたの代わりに生き続けます。だから、疲れない、幸せな夢を視なさい──

そうして、死んだ少女は最期の最期に、偽りだけれども真の幸せを手に入れたのだった──


男が初めて出逢った少女〜桃〜ペシェは、そう、真の幸せを掴んだ少女〜桃〜ペシェと同一人物だ。
少女は、時の流れに逆らい、男に忠告をした。
男は、時の流れに身を任せ、少女に忠告をした。その相手は、男に忠告をした少女だったのだ。
その輪廻の中に産まれた、最期の物語たる少女──男の娘〜桃〜ペシェは、今を生きている。

彼女は、成長し、父から全てを語られる。哀しい物語や、不思議な物語のことを。
そうして、最期にこう告げられる。

──ペシェ、お前には、この物語を、心から愛する誰かに伝えて欲しい──

だから、彼女は、今、『案内人』として、ある少女にその真相を伝えている────


千から始まり零に繋がる物語の最初へ 千から始まり零に繋がる物語 7 千から始まり零に繋がる物語 9 千から始まり零に繋がる物語の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前