夢視の姫-1
いらっしゃい……あら、あなたは、この間のお嬢さんじゃない。また来てくれたのね、嬉しいわ。
前に話したけれど、ここは、あなたに物語を伝えるしかできないところ。今日は、どんな物語が良いかしら?
ええ、不思議な物語ね、在るわよ。……では、これなんかどうかしら?
これは、ある少女が視た、夢の世界のお話。
それじゃ、読むわよ。
題名は、『夢視の姫』
毎晩、十六歳の少女は決まって同じ夢を視た。それは、まるで彼女が生きる別の世界のことのようで、少女はその夢を視るのを、毎日の楽しみとしていた。
その夢の中では、少女はある国のお姫様。非常に自由な生き方ができ、何も困ることはない。恋の相手は、隣の国の王子さま。会いに行くのも、歩いていける。
いつも視る夢に関連性は無く、まるで短編小説の繰り返し。その夢の世界では、彼女はあらゆる制約を飛び越え、望んだことは何でもできた。望めば何でも手に入る。それは、謂わば『永遠の自由』だった。
しかし、現実に生きる彼女は、今を生きているのがやっとというくらいに貧しい、最悪の人生を送っていた。しかも、彼女には両親が居なかった。
ある晩、また彼女はその夢を視る。しかし、今回は何かが違った。
──隣の国の王子が殺されたらしいぞ──
──ああ、恐ろしい、恐ろしい──
──この国の姫は大丈夫だろうか──
街人はみな、隣国の王子の訃報を口にする。少女が愛した、唯一の存在の死を…………
姫たる少女は落胆した。
あんなに愛していたのに、と……
そして、その日の夢は終わった。
少女は、その夢の意味が、まるで解らなかった。
次の日の晩、少女はベッドで眠りに就こうとしていた。今までの夢に連続性・関連性は無かったのだ。今日は、また彼に会える。そう信じて──
しかし、またしても、その世界には彼が居なかった……いや、違う。
そう、この夢は、昨日の続きだ。
姫は城を出て、隣の国へ王子を弔いに行く。道中、下々の民から心痛な眼差しを向けられたことは、忘れない。
辿り着いたのは、大きな居城だった。王子が居た、その居城…………今は、くすんでさえ視えた。
弔いを終え、苦しい気持ちで姫は帰る。
そこで、その夢は終わった。
少女が目を醒ませば、そこはリアルだった。あの、姫の世界ではなく、ただの現実。
あの夢の先が視たいのに──
あの後の物語を識りたいのに──
しかし、夢は夢なのだ……
待ち遠しかった、その日の晩、少女は全てを識りたいがために、深い深い眠りに落ちてゆく…………
弔い帰りの道中、姫は不思議な男と出逢う。黒いタキシードをきめた、洒落た紳士だ。
──姫、一つお尋ねすることをお許しください──
──何です、ジェントルマン──
そして、それに続いた言葉に、姫は驚愕した。