青い記憶-2
「このプリントの束、ホッチキスでとめて!」
「……これだけの為に俺は呼び止められたん?」
「これ一人でやると結構大変なんやから!」
教科担当ではあるけど、ほとんど喋ったことのなかった美幸と、こうやって接するようになったんは夏休み…。
部活を引退して、受験勉強のための夏休みはひどく退屈やった。
気晴らしに部活に顔だして、後輩の相手をする。
確実に現実逃避。
汗だくになった後は、プールサイドに座って足だけ水につけて涼むのが夏休みの日課。
「あち〜」
そんな小言を口にした瞬間やった。
バシャーンっ!と音がしたと同時に俺の視界は青空から水中へ…。
慌てて犯人を確認すると、そこにいたのは美幸。
「…え?何してんの?」
「暑いならその方が涼しいと思って」
「……は?」
逆光越しに美幸は白い歯を見せて笑った。
唖然としながらも、この状況を理解した俺は深くため息をついた。
「あーあ、びしょ濡れなんやけど」
「着替えあるんやろ?」
制服じゃなく、部活の練習着やったのが幸い。
でも問題はそこじゃない。
「パンツの着替えまで持って来てへんし!」
「………あ、そっか。あははは!ごめんごめん!」
笑い事じゃない。
しかも一番の問題は服が濡れたことよりも、教師が生徒を突然プールに突き落としたことや。
「真田 陸」
名前を呼ばれたことに少し驚き顔をあげる。
「いつも随分無気力やね。それともいい加減なだけ?」
なかなか面白い人やと思った。それが今に至るきっかけ。