わたしと幽霊‐痛み‐@-1
カタカタカタカタ…
薄暗く狭い部屋の中に、PCのキーをひたすら叩く音が響く。
「あ〜あ…こいつの中に居るのももう飽きたわね」
指を止め、PCの画面をぼんやりと見つめながら、彼は呟いた。
「引き籠もってPCばっかいじってるオタじゃしょうがないんだけれど」
くすくすと愉しげに鼻で嘲笑する。
≪たった2日間で飽きたのは最短記録かしら?≫
唇だけで呟き、彼は女性のような素振りで耳に髪をかけ、椅子から立ち上がった。
「じゃ〜ね。バイ♪」
その言葉を――…
言い終わった瞬間、彼の体は一度大きくぶるっ、と震えた。
「あれ?」
すっぽ抜けたような、きょとんとした眼差しで、ゆっくりと部屋の中を見回す。
その表情はまるで、
『あれ?何しようとしてたんだっけ』
というような、よくある物忘れの時の表情にも似ていて――
「まあ…いいか」
自分の、二日分の記憶が無くなっている事にいつ彼が気付くかどうかなんて、彼女――秋吉更紗にとっては別にどうでもいい事なのだった。
* * * * *
「あともぅ少しで夏休みだねっ♪」
「うん、待ちに待ち焦がれたょ〜」
下校生が溢れる昇降口を下りながら、いつものように、亜子と並んで校門に差し掛かったときだった。
「……マズいぞ…」
唐突の高谷さんの低い呟きに、あたしは返事をしようとして慌てて言葉を飲み込む。
あっ、亜子がいるから反応できないんだったぁ!
でも――なに?
何があったんだろう!?
ホントにまずそうな口調だったから、スゴく気になって…でも亜子と一緒だからどうする事もできない。
亜子はあたしの霊感体質を知らないし、モチロン高谷さんの姿も見えてない。
だから………あっ!
ふとあたしは思い付き、視線だけで高谷さんの背中を見上げた。
あたしが頭の中で彼に呼び掛け、高谷さんがそれを読んで、返事をする。
そういう会話なら、高谷さんの声が聞こえない亜子に気付かれる事もないじゃん!
うっわ〜あたし冴えてる!