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甘辛ニーズ
【コメディ その他小説】

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辛殻破片『甘辛より愛を込めて』-5

 目の前にいる女性は、本当に凪なのか? …その疑問は崩せなかった。

 雪さんが嘘をつく理由なんてどこにもないけど…だけど…。

 この凪は身長が明らかに縮んでいる。 10Cmくらいだろうか?
 そして一番気になる所が容貌だ。 これもまた明白な問題だった。

 凪は意外と大人の女性に近い顔つきをしていたのだが、対して言うと今の凪は、完全に子供っぽい顔、童顔になっている。
 まるで別人って訳じゃないものの、別人の様な雰囲気が見受けられた。


「…ショウちゃん…」
「ん?」
 凪が震えていた。 自分で自分を包むように抱き、ふるふると。
「寒いのか? …雪さんは……」
「私、やだ…抑えられないよ……」
 抑えられない?

 たった今、凪は「抑えられない」と言ったか?

「ショウちゃん…ショウちゃん……くっ、うう…ショ、ウ、ちゃ、ん……ん………」
 ぺたり。 その場に座り込む凪。


 胸に彫られた哀傷が響いて痛い。 痛すぎるよ、この傷は…。




「佐々見くん…」
 不意に声をかけられた。 雪さんが後ろにいる……が、体が動かない、振り向けない。
 もしくは、" 振り向きたくない "

「凪ちゃんって、ホントはこういう子じゃないんだよね?」
「……『いつもとは』違います。 だけど『本当は』…」
「話があるの。 来て、佐々見くん」

 雪さんに服の袖を引っ張られる、正に瞬間、猫は鼠を逃がしてはくれなかった。

 どうして、いつからそんなに尖った目を作れるようになったんだよ、凪…。
 丸くて柔らかいはずの君が、どうしたらトゲだらけになるんだ?

「私だけを見てくれるって…ショウちゃん…ずっと信じてるんだから……」
「………ならば信じて、決してやましいことは起きない」
「…本当に?」
「本当」
「…本当なの?」
「本当」
「…本当ですか?」

 ほんの一瞬だけ、片目から大粒の滴を落とす『凪』が見えた。 しかし幻想に過ぎないと知ったのは、瞬きをしてからだった。

 目の前に存在する凪の瞳には、無数の灰のような塵が渦巻いていた。

「嘘だったら許しませんよ…絶対に…許さないからね…」
「嘘をついたら死んでやるさ」


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