やっぱすっきゃねん!U…@-10
「ひとつは私が社会人時代の、もうひとつは小学生野球でやっていた練習メニューです。参考になればと思って……」
永井がノートを開く。そこには、曜日毎にやった練習量が、項目別にびっしりと書かれていた。
「これ…毎日書いたんですか!」
驚く永井。だが一哉はノンシャランな表情で、
「まあ、日記みたいな物です」
「改めて先刻の件、引き受けてもらえるかな?」
榊がそう言うと、一哉は席を立ち、真っ直ぐに永井を見つめて頭を下げた。
「よろしくお願いします。永井監督」
永井も慌てて立ち上がると、
「こ、こちらこそ、色々教えて下さい」
永井が右手を差し出す。一哉はそれを握った。力強いグリップで。
昼間の暑さが嘘のように、秋の風が流れていた。
ー土曜日ー
平日の朝練より少し遅い時刻。グランドに部員達が集まりだす。
佳代も少し遅れて1年生の列に並んだ。
「澤田さん」
となりの1年生部員、田畑が佳代に話掛けてきた。田畑とは、よくキャッチボールをする相手だ。
「なあに?」
「今日って、新しいコーチが来るんでしょ?」
「そうだった!…確か監督、そう言ってたね」
楽しみを思い出したように、田畑に笑顔を向ける佳代。
田畑も嬉しそうに、
「どんな人が来るのかなぁ…」
佳代はいたずらっぽい顔で、
「実は鬼コーチだったりして」
そう言って2人は声を挙げて笑った。
「整列!!」
信也の声が響く。校舎の方から永井がやって来たのだろう。
(…どんなコーチだろう…)
姿勢を正しながら、ワクワクする気持ちで前を覗き込む佳代。
永井の姿が見えた。が、その後を歩いて来たのは…
(あれっ?…あれって…)
ブルーに黒つばの野球帽。それは佳代が所属していた小学生野球チームのだ。
黒いアンダーシャツに踝まで裾があるベースボールパンツ。