もし、私が死んじゃったら-2
今またそのことを聞こうとしてるのか?英俊は「大丈夫」と言って愛美が喋るのを止めさせようとした。
「…あたしが死んじゃったら…ずっと英ちゃんの傍にいていい…?」
今日の愛美の質問はいつもと違っていた。愛美はまた喋りだした。ぼろぼろ涙を流しながら、さっきよりもかぼそい声ではあるが、さっきよりも力強く喋りだした。
「…ずっと英ちゃんの傍にいてね…英ちゃんを見てたいの…夜はね…英ちゃんの右側に寝てね…英ちゃんの腕枕で眠りたいの…英ちゃんに新しく好きな人ができるまで…英ちゃんに好きな人できたらさぁ…そしたらあたし…離れて空から見てるから…だから…英ちゃんは死なないでね…英ちゃん死んだら…あたし行くとこなくなっちゃうよぉ…だから…だから…」
愛美は残る力を振り絞って英俊の手を握り、「…いいよね…?」と何度も繰りかえした。英俊は涙ながらに
「わかったから…もう喋るな…」
と言った。愛美はうれしそうに笑い、かすかな声で「…よかった…」と言った。英俊は愛美の手を握り締め泣きながら励まし続けた。
救急隊員から「もうすぐ着くから頑張って!」と言われ、英俊は慌てて愛美に声をかけた。
「愛美!もう病院だよ!頑張って!」
愛美は微笑み、もう声もでないのか、ほとんど口パクに近い状態で英俊に喋りかけた。
「…あ…い…し…て…る…」
「俺も愛してる!だから頑張って!」
そう言うと愛美はうれしそうに笑い、また口を開き始めた。
「最後に…英ちゃんの…顔が…見れて…よかった…幸せ…だよ…最後の…お願い…キス…し…て…」
英俊は一瞬ためらったが、優しく笑いかけ、愛美の酸素マスクをずらし、そっと、優しくキスをした。
「今のは最後のキスじゃないぞ!元気になるおまじないのキスだ!!元気になったらまたキスしてやる!最後なんて言っちゃダメだ!」
愛美は満面の笑みを浮かべ「ありがとう」と言うと、ゆっくり目を閉じた…。
直後に病院に着いた。ドアが開き担架がおろされた。英俊は愛美の手を握り締め、名前を叫びながら一緒に下りた。だがその手も、処置室の前で離された。
不安感に包まれた英俊の目に掛時計が映った。
「…十時五分か…」
その時、英俊の前に初老の男女が慌てて駆けてきた。どうやら愛美の両親のようだ。涙でぐしゃぐしゃになった目を擦り挨拶をする。こんな形で初対面とは皮肉なものだ。
医者からの説明をうけ、愛美の母は卒倒し、英俊は愕然とした。この一言によって…。
「助かる見込みは極めて低い…」
何時間待ったのだろうか。医者の話だと、内蔵のいくつかが損傷して大量に出血している、とのことだった。愛美の母は泣きながら頭を抱えていた。愛美の父は落ち着かずうろうろしていた。英俊はただ…愛美の手の温もりを思い出しながらひたすら祈っていた。
手術中のランプが消えた。中から医者が出てきた。三人は医者のもとに駆け寄った。祈りは届いただろうか。愛美は助かったのだろうか。
医者はただ、首を横に振るだけだった…
愛美の両親は抱き合って泣いていた。英俊はその場に立ち尽くしていた…。
「あれから一年か…」
愛美が死んでから一年たち、一回忌を迎えた。喪服姿の英俊は久しぶりに愛美の両親に会う。「英俊くんは新しい人を見つけるきはないのかい?」と聞かれる。英俊は笑いながら首を振る。
誰かが言っていた。「人が本当に死ぬときは、みんなの記憶から消えたときだ」その言葉を思い出し、英俊は一人つぶやく。
「俺が愛美を忘れなければ、愛美の存在は生きていけるんだよな…」
そしてバイクのエンジンをかける。バイクにはまだ、愛美の可愛く塗装されたヘルメットが掛けてある。
バイクにまたがり、独り言のようにつぶやく。
「さっ!つかまって!出発するよ!」
かすかに「うん!」と言う愛美の声が聞こえたような気がした。ゆっくりと発進する。背中にはもう愛美の温もりを感じないが、しっかりと愛美の「存在」を感じながらバイクを走らせた。
「まだしばらく傍にいてくれよ!まだまだ好きな人見つかりそうにねーし!だって男ばっかの職場だもん!愛美!愛してるよ!」
誰にも見えることはないが、英俊は確かに愛美の存在をそこに感じていた。
あとがき
初めての作品で読みにくいかもしれませんが楽しんでもらえたでしょうか?途中しつこいかな?と思う場所もありますが自分ではいいできではないかと思っています。皆さんの感想をぜひ聞かせてください。