【DOLL:typeN001】-3
「…お前……DOLLじゃないか?」
突然、私は声をかけられた。
顔をあげると一人の男が私の前で足を止めていた。
年は三十ほど……。顔だちは端整な方だが、身なりは普通…いや…どちらかというと粗末な方だった。
………ハズレか。
「なぁ…やっぱり…お前DOLLだろ…その目の色。」
男は嬉しそうに言う。
私はにっこり微笑んで返す。
「いいえ、違いますわ旦那様。私をDOLLと身間違うて下さるなんて光栄な事ですが、私には発信器は付いておりません。DOLLがこんなところで働いてなんていたら…会社がすぐに探しに参り、連れて帰られますわ。」
冗談めかして言うと、男性はククッと笑う。
「確かにそうだ…。DOLLにこんなところで逢えるわけがないな。きっと私は一生お目にはかかれないだろうがね。あのように高いモノには……縁がないようなのだ。」
男性は肩をすくめる。
「まぁ…旦那様は私が安い女だとおっしゃるのね…。失礼ですこと。」
私がムッとしてみせると男性はあわてて手を振る。
「これは失礼…そのような他意はなかったのだが。」
……まぁ…今日はこの男に…。
私は笑顔を見せる。
「……ふふ…分かっております。けれどそれなら今夜は私を買って下さらないかしら。お安いでしょうから。」
男は悩む動作もなく頷くと、私に手を差し出した。私は無言でその手を取る。
そうして二人は連れ立って店を出た。
男が選んだ部屋は、意外にもこのホテルで一番高い部屋だった。
男の懐を心配したが、男は大丈夫だと言った。
言動を観察するうちに、身なりは悪くても案外裕福なのだろうと思われた。もしかしたらアンダーグラウンドの仕事を請け負っているのかもしれない……それなら目立たない服を選ぶのが無難だ。
…その考えにたどり着き、無駄な詮索はよした。この店に来る客にも危ない仕事をしている男は大勢いるし、下手なことを聞いて己の身を滅ぼす気はなかった。
部屋は広く、何より最上階で景色がとても綺麗だった。
私は窓際に寄り、下を眺めた。
大きなガラス一枚を隔てて、眼下に広がる街の夜景。ビルからもれる沢山の光が眠らないこの街を彩っていた。