【DOLL:typeN001】-2
「…ふぅ…」
私はため息をつく。
夢か……。
嫌な過去を思い出してしまった。
懐かしくてあたたかい過去。
けれど今の私には苦でしかない。
……戻ることは出来ないのだから。
これは己で選んだ道……。
私は邪念を捨て、仕事へと向かう。
「「いらっしゃいませぇー!」」
店に入ると、客の男を誘うように、女たちの黄色い声が飛び交っていた。
うす暗い店内。
卑猥な色の照明。
低いベース音が鳴り、店の中央ではストリッパーがそれに合わせて踊っていた。
丸い舞台を取り囲むようにいくつかソファーが並べられていて、女たちはそこに座り、声をはりあげていた。
女たちの格好は様々で、ナース服の者、学校制服の者、スクール水着を着用の者、メイド服の者……など多種多様だった。
みな客に選ばれようと通りかかる男に必死に自分を売り付ける。
「今夜は付きっきりで貴方を看病したいの……。」
「…先生……教えて欲しいことがあるんです…先生以外には頼めないの……。」
「お兄様……私を買って下さい…。」
私も静かにその女の子たちに混じるようにソファーに腰かけた。
ふと入り口に目をやると、バニーガールの格好をした女の子が、中年の男に肩に手を回されながら店を出てゆくのが見えた。きっと契約が成立したのだろう……店の上のホテルへと向かった。
そうここは…売春宿。
夜毎繰り広げられる、数々の男女の交わり。欲望の吐き捨て場。
……無法地帯。
女性の出生率が男性の二倍を上回るこの時代。相次ぐ生活苦からの女性の餓死、自殺に政府もこの職種を黙認せざるを得なかった。
少ない男性は重宝され、短時間高収入の仕事につける。快楽主義の時代、家庭を持つ男は少なく、有り余った金はこの余暇に回される。
そのためこの職種を望む女性は数知れず、最も競争率の激しい職業となった。
生きてゆくために。
悲しい世の中だ……。