Ethno nationalism〜契り〜-14
「それと、これは先ほど分かったんですが、今回の中止命令はどうやら外務省からの依頼らしいんです」
「……外務省?」
藤田はもちろん、相川も初めて聞く話だった。
「外務省を通じて公安に依頼され、公安から刑事局に依頼されたようなんです。ウチの署長が特別なルートから仕入れたらしいので、疑問なんですが……」
藤田は考えた。
外務省が出てくるという事は、事は日本だけでなく、諸外国に影響を及ぼすのだろう。
おそらく諸外国から日本政府に圧力が掛り、対処せざるを得なかった。
だからこそ、外務省の指示と分からせぬよう公安、本庁刑事局とクッションを介したのだろう。
「あ、それと、これがマリア・コーエンのモンタージュです」
村瀬は2枚の写真を藤田の前に置いた。ひとつは正面、もうひとつは横顔のだった」
それを見つめる藤田。
(美しい女性だ…)
淡い金髪に整った顔。ハリウッドの女優のようだと思った。
(……!)
だが、じっと見つめていた瞬間、背中に冷たいモノを感じた。
「マ、マジックを!」
相川と村瀬は意味が分からずポカンとして聞いていたが、藤田が執拗に言うのでギャルソンに持ってくるよう頼んだ。
10分後、マジックが届いた。藤田は奪うようにそれを握ると、写真を塗りだした。金髪の部分を。
そこに現れたのはベイルートで見た、アビルとイラン高官を殺害した女だった。
「…ま、間違いない……」
写真を見る藤田は、うわ言のように言いながら身体を震わせていた。
「どうしたんです!?」
村瀬が藤田の身体を揺さぶり聞いた。
藤田は写真を指差しながら、
「こいつだ!こいつが佐伯を殺したんだ」
ー夜10時ー
何処をどう帰ったのか分からない。相川と村瀬と〈ペルージャ〉で話をしていて、気がつけば静代の家のそばに立っていた。
(…次はオレの番だ!)
そう考えた時、恐怖から震えが止まらなかった。どんな戦場で、どんな悲惨な状況を見ても何とも思わなかった。
だが、今は違う。
死にたくない。
外灯に浮かぶその姿を、静代が窓から見つけた。途端に玄関を開けて藤田に駆け寄る。